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Todd Rundgren「Runt」(1970)
鬼才トッド・ラングレンの実質デビューアルバム。
トッドはナッズというバンドでデビューし、そこで徐々に頭角を現します。1968年に発表されたアルバム「Nazz」は、随所にトッド節が見受けられる作品ですが、この時、同時期に発表されたローラ・ニーロのアルバム「Eli and the Thirteenth Confession」にトッドは多大な影響を受けたらしい。ナッズではそういった変わったコードの楽曲はなかなか出来ない…ということでバンドを脱退。本作制作に至ります。
またこの頃、トッドの元にジャニス・ジョップリンの「Pearl」のプロデュースの話も来たのですが、トッドとジャニスの相性が合わず、この話は途中で流れたらしい。
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このアルバムは当初、覆面バンド的に「Runt」というバンド名で発表されたものですが、今では実質的にトッドのソロデビュー作品と見做されております。バンドと呼ぶにはあまりにも幅広い音楽が詰まった作品で、中には当時のトッドのやりたかった音楽を自由に作品化したような楽曲も収録されており、それに付いていけない方も多いのではないでしょうか。
まずはスローなブルース調からスタートするオープニングの①「Broke Down and Busted」から、ハードな展開。但しコーラスはトッドらしいポップさが混在。ちょっとオープニングにしては渋いナンバーに、ちょっと戸惑っていると、次曲にこれぞトッド!と期待していたようなナンバーの②「Believe in Me」が…。
短い楽曲ですが、美しいメロディー、泣かせるコーラス、そしてよく聴くとアレンジもかなり凝ってます。いろいろな楽器が使われてますね。
これがセカンドアルバムへと継承されていくこととなります。
トッドの初ヒット曲が③「We Got to Get You a Woman」。
このアルバムの大半のリズム隊はトニー・セールス(B)とハント・セールス(Ds)のセールス兄弟が務めてます。セールス兄弟はこの後もトッドやイギー・ポップの作品に関わっていくこととなります。とはいえ、この曲もリズム隊がカギというわけでもなく、やはりトッドの弾くピアノやコーラスが中心に据えられており、メロディもトッドらしさ全開、ポップですね。
どことなくサザンソウルを感じさせる⑤「Once Burned」。
ちょっとザ・バンドっぽくないですか? それもその筈、ドラムにレヴォン・ヘルム、ベースにリック・ダンコのザ・バンドのリズム隊が参加。ちょうど同時期にトッドはザ・バンドの「Stage Fright」の制作に関わっており、その影響を受けたもの。こういうサウンドのトッドも味わい深くていいですね。
6曲目までがA面。7曲目からの4曲がB面ですが、このB面がなかなかアバンギャルドでクセモノですね(笑)。
⑦「I'm in the Clique」はご紹介すべきか迷ったのですが…。
この曲から先はあまり聞けないという方も多いのではないでしょうか。特にこの曲は最初からノイジーでかなりアバンギャルドな楽曲。しかも曲が進むにつれてアドリブ合戦の様相を呈してきます。ジャズの世界ですね。ベースはジョン・ミラー、ドラムはボブ・モーゼス。
デビューアルバムにこうした楽曲が収録されていること自体、かなりトッドの先進性が表れていると思いませんか?
ちなみに「I'm in the Clique」に続く「There Are No Words」という曲も同じく前衛的。タイトル通りのインストナンバー。リラックスミュージック、環境音楽に近いかもしれません。敢えてアップしませんが、気になる方はチェックしてみて下さい。
メドレー形式の⑨「Baby Let's Swing"/"The Last Thing You Said"/"Don't Tie My Hands」。
いきなりノスタルジックなメロディ…と思いきや、やっぱりトッドらしいポップスの波が押し寄せてきます。5分半の至福の時間。メドレー形式で曲が紡いでいかれます。
このアルバムのジャズや環境音楽的な流れは、同時期のラスカルズのアルバムを連想させます。当時、音楽的にそういった機運が高まっていたのでしょうか。こうした先進性が味わえるのであれば、本作は間違いなく受け入れられるでしょう。
また本作はトッドがやりたいことをやったアルバムなので多様性が感じられますが、後の名盤「Runt. The Ballad of Todd Rundgren」「Something/Anything?」の萌芽が随所に見受けられる好盤ですね。