The Souther Hillman Furay Band「Trouble In Paradise」(1975)
J.D.サウザーが亡くなれたことはまだ実感として湧きません。日本では殆どニュースにもなっていないからだと思いますが、米国でもそれほど大きなニュースになっていないような気もします。素晴らしい楽曲を書く方だっただけに残念です。
ここ数日は彼の作品を聴く機会が多かったのですが、そんな中、J.D.が在籍していたサウザー・ヒルマン・フューレイ・バンドのセカンドを殆ど聴いていなかったことに気付き、今更ながら聴き込んでおりますが、これがファースト以上にいいんですよね。このセカンドは駄作だと勝手に決めつけておりました。
このセカンド、イーグルス以上にイーグルスらしいサウンドが楽しめます。
本作はJ.D.サウザーが4曲、クリス・ヒルマンが3曲、リッチー・ヒューレイが2曲楽曲を提供しておりますが、やっぱりJ.D.サウザーの4曲の楽曲が素晴らしいですね。それから冒頭3曲、J.D.、クリス、リッチーの三者三様の楽曲が素晴らしいのです。
参加ミュージシャンはアル・パーキンス(G)、ポール・ハリス(Key)、ジョー・ララ(Per)ロン・グリネル(Ds)。ロンはこの後、フールズ・ゴールドに加入致します。前作ではジム・ゴードンが叩いておりましたが、あまりにも素行が悪く、クビにしたらしいですね。プロデュースはトム・ダウド。
まずはJ.D.作のアルバムタイトルトラックの①「Trouble In Paradise」。
J.D.らしいロックンロールです。この曲の聴き所はやっぱり間奏の4ビートジャズに転換するところでしょうか。晩年のJ.D.はいぶし銀的なジャズ寄りの楽曲に傾倒していきましたが、この頃から彼の趣味が反映されております。そして驚くべきことに、ここでのドラムはJ.D.自身に拠るもの。元々ドラマーでもあったJ.D.ですが、こうしたシャッフル系のドラムも見事に叩いてますね。
ちなみにこの曲は後に発表されたJ.D.のソロアルバム「You're Only Lonely」にも収録されておりますが、こちらはロックンロールに徹し、間奏はサックスソロとなってます。
続く2曲目はクリスの作品の②「Move Me Real Slow」。
かなりファンキーな、これもある意味イーグルスっぽい楽曲。クリス・ヒルマンってカントリーボーイ的なイメージがあったので、こうした曲も作るんだなあとちょっとビックリ。そしてこの曲、ベースがかなり効いていると思いませんか。もちろんクリスはベーシストだから、これはクリスのプレイかと思いきや、これがJ.D.のプレイらしい。なぜクリスは自分の曲なのに自らベースを弾かなかったのか、ちょっと気になります。
優しさ溢れるリッチーの③「For Someone I Love」。
リッチーのヴォーカル、曲調って優しいですよね。しかもこの曲のコーラスの美しいこと。J.D.とクリスのコーラスでしょうか。このコーラスなんかはイーグルス以上にイーグルスらしいと感じます。
トロピカルムード溢れるJ.D.作の④「Mexico」。
彼女が休日にメキシコで羽を伸ばしている間、寂しさを紛らわすために軽い浮気をしてしまった…みたいな歌詞でしょうか。J.D.らしいメロディですし、メキシコへの憧憬みたいなものをサウンドで表現しております。マンドリンはクリス・ヒルマン。
今回のJ.D.の訃報で、彼がニューメキシコ州在住であることを知りました。名前の通り、メキシコの北側に位置する州ですね。J.D.はやっぱりのどかな感じのするメキシコが好きだったのでしょうか。
リンダ・ロンシュタットのカバーがあまりにも有名な⑦「Prisoner in Disguise」。もちろん作者はJ.D.サウザー。J.D.の優しいコーラスが美しいリンダのバージョンは本作とほぼ同時期に発表されてます。
本家のこちらはちょっとカントリーロック風な味付け。アル・パーキンスのスティールギターや中盤以降からのイーグルス風なコーラスがいいですね。
エンディングはJ.D.作の⑨「Somebody Must Be Wrong」。
実はこの曲が本作中、一番のお気に入りだったりします。さらっと乾いたようなサウンド、途中からソウル風なグルーヴに変わっていくところなんかはモロに好みです。そしてこれもまたイーグルス風なコーラス。こちらは実際グレン・フライとドン・ヘンリーが参加しております。なんとなく「呪われた夜」の頃のイーグルスを彷彿させるリズム、グルーヴがいいんですよね。
意外と中身は素晴らしいアルバムですが、商業的には失敗に終わり、バンドは解散。J.D.、クリスはソロ活動に。クリス・ヒルマンはロジャー・マッギン、ジーン・クラークとバンドも結成することとなります(「McGuinn, Clark & Hillman」もいいアルバムでした)。リッチーはこのバンドに在籍していたアル・パーキンスからキリスト教を勧められ入信。後に牧師となりながら、マイペースに音楽活動をしていきます。