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Marilyn McCoo & Billy Davis Jr.「Blackbird: Lennon-McCartney Icons」(2021)
このアーチストの名前を見て誰か分かった方は、60年代音楽に造詣が深い方かと思われます。フィフス・ディメンションに在籍していたお二人。私、フィフス・ディメンションって大好きなグループなんです。特にこの頃のソフトロックっていいんですよね。
フィフス・ディメンションは60年代後半に活躍した男性3人、女性2人のコーラスグループで、「黒いママス&パパス」なんて呼ばれてました。ボーンズ・ハウがプロデュースで腕を振るい、素晴らしいミュージシャン(レッキング・クルー)と素晴らしい楽曲にも恵まれた素敵なグループでした。マリリンとビリーはその中核メンバーで、1969年にご結婚、1975年にグループを脱退し、二人で活動を開始。以降息の長い活動をされております。
そんな二人にとって本作は、なんと約30年振りの新作!
しかもレノン&マッカートニーの素敵なカバー集。新作を発表されるくらいモチベーション高く活動されていたとは…。マリリンは77歳、ビリーは82歳。離婚が当たり前の米国において、未だに夫婦として活動されていることにも驚きを覚えます。
しかもこの新作、恐らく日本人にはピンと来ないと思いますが、ここ数年、米国で起こっているBLM (Black Lives Matter) 運動に刺激を受けて制作されたもの。ジャケットには警官などの暴力で命を落とした人々の名前が並べられてます。そしてアルバムタイトルにもなっているポール作「Blackbird」は、ポールが公民権運動にインスパイアされた作った曲。この辺りの流れを把握した上でこのアルバムを聴くと、この2人の熱い思いが感じられます。
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ということでまずは③「Blackbird」の動画をご覧ください。黒い鳥と共に歌詞がアップされるもの。彼等のメッセージを感じさせます。アレンジはゴスペルタッチのソウルフルなもの。この歳になっても、まだメッセージを発信するパワーを持ち続けているマリリン&ビリー、スゴイ方々です。
ちょっと重たい感じもしなくはないのですが、この後にこちらもポールの名作⑦「Silly Love Songs」のカバーをお聴きください。
「Blackbird」ではマリリン中心でしたが、こちらはビリーの熱唱が聴けます。オフィシャル動画ですが、曲調に合わせた愛らしい動画です。アルバム自体が重たいテーマを扱ったものですが、収録曲はこうした軽快な曲もあったりして、すごく楽しめます。間奏でのビリーとマリリンの絡みのコーラスもいいですね~。
云わずと知れた④「Yesterday」。でもここで聴かれるのはスムーズジャズな「Yesterday」。正直、イエスタディは聴き飽きたという方も多いかと思いますが、ここでのクールなアレンジはかなり好み。スパニッシュ・ギター風なソロも素敵です。これらミュージシャンのクレジットがないので誰が演奏しているのか分からない点が残念ですが。
こちらも原曲とは全く違うアレンジの⑤「Ticket To Ride」。
めちゃくちゃブルージーじゃないですか。「涙の乗車券」って、あまりR&Bとかブルースって感じはしないと思っていましたが、こちらのアレンジはかなりR&B的・・・というかブルース。クラプトンが好みそうな演奏ですよね。このギター、誰だろうなあ。
ちなみにこの曲は公民権運動の母と云われているローザ・パークスへのオマージュ。映像のイラストもそれが分かるようなもの。ローザが逮捕された経緯とその後のバス・ボイコットは、ローザのwikiをご覧頂ければと思います。このカバー曲にもこうした思いが隠されているんですよね。日本人には分かりづらいと思います。
ジョン・レノンの代表曲の⑨「(Just Like) Starting Over」。
この曲のタイトルには(feat. James Gadson)との記載が…。ジェームス・ギャドソン…、70年代に活躍したファンク・ドラマー。現在81歳。ホントに彼が叩いているのかなあ~。だとしたら味わい深い。このスターティング・オーバー、なんだか優しいR&B…、いいですね。
実は今回ご紹介出来なかった他のカバー曲も素敵です。久しぶりに心地よいR&Bアルバムを聴きました。でもその裏にあるメッセージは、我々日本人には恐らく分かりづらいものかと思います。恐らくマリリンとビリーは、フィフス・ディメンション時代から、彼等自身が黒人の人権問題について身をもってツラい経験をしてきていると想像されます。だからこそ、この歳になってもこうした作品を通じて熱いメッセージを発信出来るんでしょうね。
最後にマリリンとビリーが結婚する契機となったローラ・ニーロ作、フィフス・ディメンションの1969年の大ヒット曲、そして私の大好きな「Wedding Bell Blues」をどうぞ。最高にユニークな、そしてハートウォーミングな映像です。でも最後は…。