
The Band 「Moondog Matinee」 (1973)
ザ・バンドは1968年のデビューアルバム「Music From Big Pink」発表以来、一貫してアメリカのルーツミュージックを追及する姿勢を崩さず、ミュージシャンズ・ミュージシャンとして、玄人受けするような音楽を演奏し続けてきました。そんな彼らが、過去の影響を受けた楽曲をカバーしたのが本作。
本作は、1972年、ずっとツアーに明け暮れていた彼らが、年が明けた1973年に断続的に収録してきたもので、同年11月に、彼らの5枚目のスタジオ作品として発表。如何にも彼等らしい、マニアックな選曲です。

アルバムトップはシングルカットもされた①「Ain't Got No Home」。オリジナルはクラレンス・ヘンリーが1956年にヒットさせたもの。ヴォーカルはドラムのレヴォン・ヘルム。楽曲は典型的なR&B調ロックンロール。ブギウギ調のガース・ハドソンのピアノとか、いぶし銀のレヴォンのヴォーカルとか、ザ・バンドらしい演奏。
②「Holy Cow」はサザン・ソウルの大御所、アラン・トゥーサンの作品。楽曲自体は1966年にリー・ドーシーがヒットさせたナンバー。1曲目のロックンロールから、この曲のイントロの落ち着いた曲調の流れが結構好きです。ヴォーカルはリック・ダンコとレヴォン。ザ・バンドってリックとレヴォン、リチャード・マニュエルの3人のリードヴォーカリストがいたわけで、皆が皆、味わいあるヴォーカルを聞かせてくれます(私には誰が歌っているのかまで聴き分けられませんが…)。
本作中、一番のお気に入りのナンバーが④「Mystery Train」。コレ、実にファンキーな演奏なんですよね。原曲は1956年にエルヴィス・プレスリーがヒットさせたナンバー。原曲自体知らなかったのでチェックしてみましたが、当時流行っていたようなカントリー調のロカビリースタイルのナンバーでした。初期プレスリーらしい仕上がりでしたが、この曲をここまでカッコよく仕上げるとは。ファンキーなクラヴィネットはリチャードでしょうか。ヴォーカルはレヴォン。
⑤「The Third Man Theme」は皆さんご存知の映画「第三の男」の主題歌。アントン・カラスのツィターの演奏が有名。この曲は他のカバー曲とはちょっと毛色が違いますね。他はR&Bやブルースのカバーですが、こちらは映画主題歌、かつインスト。ザ・バンドといえば、リーダー格でザ・メイン・ライターのロビー・ロバートソンが有名ですが、本作ではカバー集ということで、あまりロビーに焦点が当たってませんでしたが、ここではインストということもあり、ロビーのハープギターが光ります。
⑦「The Great Pretender」はリチャードの熱唱が心を打たれます。プラターズが1955年にヒットさせたロッカバラード。この曲を聴いていたら、フッとクィーンの「Save Me」と似たようなメロディが出てくるのに気づきました。こうした3連のバラードはメロディが似てくるものです。
この後、ザ・バンドはボブ・ディランとの共演を経て、名盤「Northern Lights-Southern Cross」 を発表、そしてバンドは崩壊していきます…。