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Phil Spector「Christmas Gift to You From Phil Spector」(1963)

まだ少し気が早いですが、そろそろクリスマスアルバムが活躍してくる時期になりました。別に何かクリスマスにあるわけではないのですが、この時期には妙にこれらアルバムを聴きたくなりますね。

そんな名クリスマスアルバムの中の1枚が本作。
狂気の人、名プロデューサーであるフィル・スペクターの数ある歴史的偉業のひとつが、このアルバムかもしれません。
この時期になるとDonny Hathawayの「This Christmas」Jackson 5の「The Jackson 5 Christmas Album」が聴きたくなってきますが、このアルバムもそういった聴きたくなる定番でしょう。欧米の音楽好きの方々は、このアルバムを大事にされているのかもしれませんね。

プロデューサーが皆にプレゼントするという仰々しいタイトルで、「お前、そんなに偉いのか??」と突っ込みを入れたくなるようなタイトルですが、そんなに偉かったんですね。参加アーチストはDarlene Love、Ronettes、Bob B. Soxx And The Blue Jeans、Crystals・・・。皆、当時の売れっ子スターです。またフィルのオーバーダビングを重ねて作り上げる「ウォール・オブ・サウンド」は、多くのミュージシャンに多大な影響を与えました。ブライアン・ウィルソンや大滝詠一なんかはその代表格でしょう。
このアルバムを聴くと、初期ビーチボーイズのアメリカンポップスの香りと共通なものを感じさせます。

①「White Christmas」はビング・クロスビーで有名な超定番クリスマスソング。ビング・クロスビーのヴァージョンはスローなバラードですが、ここではポップスらしく、軽快な仕上がりになってます。
フィル・スペクターの音を支える重要なミュージシャンがハル・ブレインです。ここでの(というかアルバム全体を通して)ドラム、当時としては随分重い音をしておりますね。「ドシッ」とくるような音、そして畳み掛けるようなタムのフィルイン。ここではエンディングでそれが聴かれます。
あっ、この曲、歌っているのはダーレン・ラブです。本来ヴォーカルが主役なのに、やっぱり主役は音の方なんですよね。

ロネッツが歌う②「Frosty The Snowman」もいいなあ~。ロネッツの永遠のヒット曲、「Be My Baby」のあまりにも有名なイントロ、そう、あのドラムのイントロ、あれもハル・ブレインですが、ここでも「Be My Baby」のようなドラムが聴かれます。
メロディも軽快で、心がウキウキしてきます。

クリスタルズの④「Santa Claus Is Coming To Town」も定番ソング。
のちのち多くのアーチストがクリスマスソングを歌いますが、それらの原型アレンジは、このアルバムに集約されるのではないでしょうか?
どれもがポップスとして一級の仕上がりです。ちなみにこの曲もハル・ブレインのドラムがやたらとうるさいです(笑)。

私の大好きな⑦「I Saw Mommy Kissing Santa Claus」。
ジャクソン・ファイヴ、というか11歳のマイケルが熱唱するヴァージョンが一番好きなのですが、ここではロネッツが歌います。バックでいろいろなパーカッションが鳴ってますね。こういった音圧はブライアン・ウィルソンを虜にしました。彼はある意味、フィル・スペクターを超えたアーチストかもしれません。

⑪「Christmas」はこのアルバムのオリジナルであり、作曲はフィルとジェフ・バリー、エリー・グリニッチの夫婦コンビ。
ヴォーカルはダーレン・ラヴ。このアルバムが発表された年にフィルはフィレス・レーベルを立ち上げます。ジェフとエリーはフィルと多くの仕事をしていくことになります。

エンディングの⑬「Silent Night」ではなんとフィル自身の感謝のコメントが入ります。何と傲慢な(笑)。
とは言え、ビートルズの面々にも大きな影響を与えていったフィルは、偉大なプロデューサーだったのでしょう。ただ2003年、フィルは女優ラナ・クラークソンを殺した罪で逮捕、一旦保釈されますが、結局2009年に有罪の評決が出されて収監。2021年1月にコロナの合併症により亡くなられてます。

ブライアン・ウィルソンも同様ですが、こんな素晴らしいポップスをプロデュースしていくためには、常人ではいられないということなのでしょうか・・・。でもこのアルバム、そんな暗い話を吹き飛ばしてしまうくらい、ハートウォームで心がウキウキしてくるアルバムですね~。


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