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荒井由実「ひこうき雲」(1973)

恐らく日本のニューミュージックシーンに大きな影響を及ぼしたであろう1枚。それがユーミンのデビューアルバム「ひこうき雲」。この当時はまだ荒井由実。若干19歳!

もともとは作曲家志向だったユーミンですが、彼女自身に歌わせることを薦めたのが村井邦彦さん。アルファミュージックの創始者ですね。当時ユーミンは雪村いづみさんに「ひこうき雲」を提供したのですが、どうもうまくいかず、結局お蔵入りになってしまった。そんな時、村井さんが「これは彼女自身が歌ったらいいのでは…」と思いつき、そこから一気に本作制作に向かっていったらしい。

本作が素晴らしいのはユーミン紡ぎだす詞とメロディセンス。それからバックを務めたキャラメル・ママのアレンジと演奏力。キャラメル・ママとのコラボも村井さんが仕掛けたもの。当時、キャロル・キングは後のザ・セクションと呼ばれるバンドと曲を作り上げていくスタイルでレコーディングしていたのですが、そのことをヒントに村井さんが声を掛けたのが細野晴臣。細野さんが松任谷正隆、林立夫、鈴木茂を連れてきて、キャラメル・ママとしてユーミンとレコーディングを重ね、仕上がった名作が本作。

日本が誇る永遠の名盤

アルバムタイトルトラックであると同時にあまりにも有名な①「ひこうき雲」。なんとユーミン、16歳の時に書かれた名曲。小学生のときの同級生が亡くなったことを悼み、書かれたもの。メロディは明らかにプロコルハルムからの影響が窺えますが、命をひこうき雲に例えるセンスが素晴らしい。
若くしてユーミン、感性が研ぎ澄まされていたんでしょうね。アップしたのはaikoとのコラボ。この曲は数多くの方々がカバーしておりますが、圧倒的に原曲が素晴らしい。但し、ここでのaikoのヴォーカルも聞かせてくれます。そしてユーミンとのハモリ。この曲でハモっているバージョンを聴いたのは初めてです。素晴らしい!

ボッサが好きだったというユーミンの趣味が反映された②「曇り空」。不気味な男性コーラスは後にご主人となる松任谷正隆。間奏のフルートソロなんかも楽曲にマッチしています。細野さんのよく動くベースが相変わらず素晴らしい。当時、これだけのハイセンスな楽曲をやっていた人って、日本では皆無だったのではないでしょうか。なかなか音源がないので、ライヴバージョン(こちらでは2曲目)を。

③「恋のスーパー・パラシューター」は、ユーミンが大好きだったジミ・ヘンドリックスがパラシュート部隊に所属していたことをモチーフとしたもの。ユーミンのデビューアルバムは、全体的に静かで、内省的な楽曲が多いのですが、この曲は「動」の部分を担っている楽曲。鈴木茂のスライドギターが炸裂。間奏のドラム、パーカッションソロも実にスリリングです。
ニコ動には面白い映像もありました。ユーミン若い!

本作中、個人的なお気に入りはセカンド・シングルにもなった⑤「きっといえる」。この曲のポイントは何と言っても転調を繰り返すメロディと、それを支えるタイトな林立夫のドラミング。サビの部分とか、かなり重たいドラミングです。ジム・ゴードン辺りのドラミングを彷彿させますね。いや、きっとジムのドラミングを意識したものじゃないでしょうか。ボッサを下敷きにしたような楽曲なので、間奏のサックスソロはスタン・ゲッツを彷彿させる西条孝之介のプレイ(これも村井さんのアイデアらしい)。細野さんのガットギター、ソウルフルな鈴木さんのギター、どれも超一流のミュージシャンの贅沢なプレイが聴けます。
この曲も多くのカバーが存在しますが、意外と原田知世のボッサバージョンがいいのです。

⑦「紙ヒコーキ」は意外と世に知られていない楽曲じゃないでしょうかね。カントリー・フレイヴァー漂う名演。スティール・ギターは駒沢裕城。グラム・パーソンズとかリッチー・フューレイとか、60年代後半のウエストコーストロックではカントリーが一世を風靡しましたが、そこからの影響が窺えます。もちろんこうした音楽は、ユーミンよりも、演者のキャラメル・ママの方が精通していたと思われます。

エンディングトラックは⑩「そのまま」。こちらもあまり知られていない楽曲かも。地味ながらも、味わい深い楽曲です。この曲の持つアーシーな雰囲気、キャロル・キングに近いものを感じます。スティール・ギターとかパーカッションとか、この曲もウエストコースト系のSSWからの影響大ですね。

このデビューアルバム、実はアルファミュージックが作ったスタジオで制作された最初の1枚。そして完成までに1年近くを要したらしい。バックの演奏は、これだけのミュージシャンの方々なので、それほど時間はかからなかったのですが、その力量にユーミンの弱いヴォーカルが付いていけなかった…ということのようです。
当時のキャロル・キングやジェームス・テイラーのように、バンドメンバーとじっくり仕上げていった名曲達。この当時の日本の音楽シーンの結晶のようなアルバムです。日本が世界に誇れる1枚ですね。

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