Jimi Hendrix「First Rays of the New Rising Sun」(1997)
1970年1月、バンド・オブ・ジプシーズ解散後、ジミ・ヘンドリックスはスタジオ入りして様々な楽曲のレコーディングを行います。これらはジミの死後、いろいろな形で発表されてますが、過去も含めてジミの音源は紆余曲折の末、1995年にジミの実父、アル・ヘンドリックス等が立ち上げたエクスペリエンス・ヘンドリックスが取得することとなり、ようやく過去のジミの音源が整理されることとなったのです。
そして本作の母体となっているのは、ジミの死後、1971年に発表された「Cry Of Love」というアルバム。ジミはこのアルバムを「First Rays of the New Rising Sun」と呼んでいたそうです。素晴らしい楽曲群を踏まえれば、そもそも2枚組で発表するという選択肢も考えられますが、当時のマネジメント・レコード会社からは、それを許してはくれず、「Cry Of Love」は全10曲で発表。
そして1997年、同時期に収録された7曲を加えた17曲が、正式にジミの遺志を継ぐ形で「First Rays of the New Rising Sun」として発表されることとなった次第です。
本作収録の17曲は、いくつかのアルバムで既に発表済の作品群ですが、それらをエディ・クレイマーが纏め上げたもの。ファーストアルバム時のジミは、サイケ感溢れるブルースな作品が多かったですが、やはりこの頃となると、作品に奥行や緻密さが感じられ、よりファンクなハードロックが堪能出来ます。①「Freedom」、②「Izabella」、⑥「Dolly Dagger」、⑦「Ezy Ryder」なんかはその典型で、どれも圧倒的にカッコいい!
ギターの音色がとにかくぶっ飛んでいる⑤「Room Full of Mirrors」は、スタジオに籠りっ放しだったジミが、ギターでどんな音色が出せるのだろうと試行錯誤していた過程で作ったような気がします。ベースはビリー・コックス、ドラムはミッチ・ミッチェル、たった3人での演奏とは思えない演奏力です。
この曲、ライブでも結構演奏されているようで、YouTubeでもライブ音源が聴けますが、本作とはちょっとイメージが違い、よりブルース色が濃く、ギターも本作でのような実験サウンドではありませんね。この曲は是非、このスタジオ盤を聴いてほしい!
ちょっとスローな⑧「Drifting」では曲名の通りの浮遊感を、Vibesでよく表現されてます。ギターもクリアーなトーンを駆使した逆回転風なサウンドで、こちらも浮遊感を感じさせます。ジミって攻撃的な曲が有名ですが、こうした感情溢れる曲も作れる有能なクリエイターだったんですよね。
⑨「Beginnings」はヘビーなインストナンバー。
ベースはビリー・コックス、ドラムはミッチ・ミッチェル。ミッチのドラミングが暴れてますね~。この曲はなんとなくZEPをイメージさせます。但しリフの展開なんかは明らかにジミー・ペイジとは違いますね。ジミの方がよりアグレッシブな印象です。ジミ流のハードロック・ナンバーと呼べるかもしれません。
本作中、一番早くレコーディングされたのが⑪「My Friend」。
1968年3月のレコーディングですから、「Electric Ladyland」制作途中ですね。歌い方といい、ボブ・ディランの影響を感じさせる楽曲。しかもバックはジミがデビュー前に一緒にやっていたメンバー。スティーヴン・スティルスがクレジットされてますが、それは曲が始まる前にピアノを弾いているだけで、実際の演奏には加わってません。ビーチボーイズのこういったパーティ風のアルバムを出してましたが、この曲はそんな感じで、リラックスしたジミが楽しめます。逆に言えば、それ以上の価値はない楽曲であり(とは言い過ぎでしょうか)、本作収録曲を横に並べてみると、ちょっと違和感のある選曲ですね。
アグレッシブでハードな⑫「Straight Ahead」。でもギターは意外とクリアなトーンで、粘着質なプレイ。この当時のジミの特徴かもしれません。ファンク、ニューソウル、ジミが目指していた音楽は、後世のミュージシャンがしっかり引き継いでいったと思います。
⑯「In from the Storm」はジミ流のハードロック。ギターのリフが豪快だし、コーラスも今までにないような、ちょっとソウルフル&ゴスペルタッチなもの。中盤からはテンポアップし、徐々に演奏は熱いものになっていきます。ジミの豊富なアイデアに驚かされますね。
本作はエクスペリエンス・ヘンドリックス設立後にリリースされた最初の1枚。ジミの正式なオリジナルアルバムとして、十分聴きごたえのある内容です。特にサイケデリックなジミヘンしか知らない方にとっては、驚きの1枚ではないでしょうか。やっぱりジミのオリジナリティ、スゴイですね。
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