Pretty Things「S. F. Sorrow」(1968)
60年代ブリティッシュ・ロックを深堀してくと、このプリティ・シングスというバンドにも行きつきます。
ギターのディック・テイラーはローリング・ストーンズのメンバーだったことは有名な話で、ストーンズ脱退後、1963年にヴォーカルのフィル・メイと共にプリティ・シングスを結成します。なのでストーンズの対抗馬としてもよく知られたバンド。当時はR&Bバンドだったんですね。
彼等はアナーキーなイメージのバンドで、実際いろいろなトラブルを起こしていたようです。そんな彼等もメンバーチェンジを重ね、しっかりした音楽をやろうと心機一転、レコード会社も移籍をし、4枚目のアルバムを制作します。ところがこのアルバムがあまりにも従来のイメージと違い過ぎてしまいました。
1967年から制作に入っていたものの、発表されたのが1968年12月。このアルバムこそロック史上初の「ロック・オペラ」なのですが、今ではもちろん「ロック・オペラ」といえば、商業的に成功したザ・フーの「Tommy」が思い浮かびますね(トミーは1969年5月発表ですが)。レコード会社もすんなり発表させて、プロモーションもしっかりしていれば、このプリティ・シングスというバンドも、また別の展開を見せていたことでしょう。
本作は、ヴォーカルのフィル・メイが作り上げたS.F.ソロウという人物の孤独な生涯を描いたストーリーを音楽仕立てで展開していくもので、各曲のストーリーに合わせたメロディと絶妙なアレンジが素晴らしいのです。私はプリティ・シングスは本作しか知らないのですが、初期R&Bバンドからは想像出来ないくらい、楽器を器用に操っている印象です。ちなみにジャケットのイラストもフィルが手掛けております。
オープニングから強烈にその印象を感じさせる①「S. F. Sorrow Is Born」。S.F.ソロウの誕生ですね…。
ちょっとドノヴァンっぽいラガロック風なイントロ。そしてS.F.ソロウが誕生したと思ったら、サイケ風なアレンジ、メロトロンが壮大に響き渡ります。コーラスは決して上手くないし、どちらかというとぶっきらぼうな感じ。でもハンドクラッピングとか、ホーンのアレンジとか、S.F.ソロウの誕生を祝っている感じが伝わってきますね。
2曲目からいきなり美しいハーモニーが聞かれる②「Bracelets of Fingers」。
出だしの ♪ Love Love Love…♪ ってついついドリカムを連想してしまいます。3拍子のリズムで、マーチングドラム…。間奏はインド風の音楽と摩訶不思議なアレンジ。これが数年前まではR&Bロックをやっていたバンドだったとは思えませんね。
①②とは一転、スリリングな⑤「Balloon Burning」は、ソロウのよき理解者だった彼女が乗っていた気球船が爆発、燃えてしまったというストーリー。そこにプリティ・シングスらしいハードロックの素晴らしい演奏。これはなかなかカッコいいですね。
⑦「Baron Saturday」、これもまたアレンジがユニークで、如何にもこの時代に流行ったサイケ感覚が効いてます。
最初のヴォーカルはギターのディック・テイラーだったんですね。メロディ自体は後期ビートルズ風。間奏のパーカッションがフューチャーされるところなんか、ドロドロしていてサイケですね~(笑)。
アップした映像はオフィシャル・ライヴって表記されてますが、思いっきり口パク。そりゃ、この曲、なかなか忠実にライヴで再現するなんて困難ですね。
サイケなハードロックの⑫「Old Man Going」、コレ、演奏が非常にカッコいい。
年老いていく老人、寂しさを微塵も感じさせない熱いロック。このギャップが堪りません。緊張感ある演奏、アレンジ、熱いギターソロ、どれも素晴らしいです。
そしてその熱い演奏の後、本作のエンディングにひっそりと収録されている弾き語りの⑬「Loneliest Person」。
わずか1分30秒弱。おまけのように収録されたこの曲、でもかなりヘビーな内容。あなたは世界で一番孤独な人かもしれないけれど、僕ほどじゃないよ。世界で一番孤独なのはあなただとしたら、あなたの名前はS.F.ソロウでないと…。
こんな内容の歌詞。なかなか考えさせられます。
プリティ・シングスは、なんとフィル・メイが亡くなる2020年まで活動していたらしい。息の長いバンドの割には、それほど知られた存在でもない…というのも彼等らしいところ。ちなみに以下は2000年代の「Old Man Going」の演奏。いや~、めっちゃカッコいい。どことなくザ・フーに似ていなくもない。
こういうバンド、もっと深く知りたくなりますね。