見出し画像

Marc Benno「Lost in Austin」(1979)

今回は知る人ぞ知るマーク・ベノです。スワンプ好きの方ならよくご存じとは思いますが、一般的には知られていないですよね。また仮にご存じであったとしても、彼のセカンド「Minnows」くらいしか認識されていないのではないでしょうか。
なのでこのアルバムを知っている方はよほどのマニアの方と思われます。1979年という時代にあっても、ディスコサウンドとは全く無縁(笑)、流行に左右されていないサウンド(よって全く売れていないんですが…)。しかもバックはエリック・クラプトン・バンド…と聞けば、ちょっと気になってきませんか。

マークは1972年にサードアルバムを発表後に長期休養に入ります。当時はマークをJTのようなSSWに売り出したかったレコード会社と対立があったようです。その活動再開の手助けをしたのが盟友のエリック・クラプトン。彼のバックバンドのメンバー、カール・レイドル(B)、アルバート・リー(G)、ディッキー・シムズ(Key)も協力しております。そしてドラムはマークとの付き合いが長いジム・ケルトナー。プロデュースはグリン・ジョンズ。同時期にクラプトンは「Backless」を制作しております。「Backless」と「Lost in Austin」は双子のアルバムとも云われているらしいのですが、「Backless」のプロデューサーもグリンです。

マークは全く自身のポリシーを曲げずに、渋い内容の本作を発表します。ちなみにマーク・ベノが初来日したのが2005年。その時の貴重な来日インタビューが2005年12月号のレココレに掲載されてます。そのインタビューでマークは「僕の書いた「Chasin' Rainbows」は、ひょっとしたらエリックの「Tears In Heaven」に影響を与えたのかもしれない」と語ってます。そんな大胆なことを仰っていいのか…と思ってしまいますが(笑)。

その「Chasin' Rainbows」が本作に収録されてますので、まずは②「Chasin' Rainbows」を。せっかくなのでライブ映像をご覧頂こうかなと。この映像は、日本のスワンプ・ミュージックの第一人者でもある徳武弘文さんの2011年の「Dr.K 還暦記念 LET’S SWAMP TOUR」の中からのもので、なんとマークがスペシャル・ゲストで参戦しております。マークと徳武氏、ドブロギターに若いChihanaさんの熱いスワンプが堪能出来ます。Chihanaさんのドブロギターのソロ、いいですね~。ところで果たしてエリックはこの曲に本当にインスパイアされたのかな~。

オープニングはアコースティックなブルースナンバーの①「Hotfoot Blues」。この曲、ひょっとしたらワンコードで一気に聞かせてしまっているかもしれません。ワンコード・ブルースというやつでしょうか。間奏の強烈なスライド・ギターはエリック・クラプトン。バンドメンバーの演奏もどこか楽しそうに感じます。

あの曲にすごくそっくりな③「Me and a Friend of Mine」。
ジム・ケルトナーのベタッとした重いドラムが印象的な楽曲です。
あの曲って分かりますか? ドアーズの「Light My Fire」です。コード進行がソックリなような気がします。マークがドアーズの「L.A. Woman」にギタリストとして参加した話は有名ですが、これはマークの「Minnows」のエンジニアを務めたブルース・ボトニックの誘いが切欠だったらしい。当時ドアーズはブルースへのアプローチを欲しており、同じプロデューサーだったブルース・ボトニックの提案により実現したもの。マーク自身はジム・モリソンとは全く面識はなかったそうです。マークはそんな繋がりもあった上でこのような曲を作ったのかなあと勝手に妄想しております。

すごく感傷的な楽曲の④「New Romance」。こんな今日も書けてしまうマーク、多彩ですね。ちょっとフォーキーでもあり、実にメランコリックなナンバーですよね。ホテル・カリフォルニア以前のイーグルスがやりそうなバラード。マークのちょっと投げやりな、でも熱いヴォーカルもいいですね。素晴らしいサックスはジャズ・ミュージシャンとしても著名なディック・モリシーの名演です。

「New Romance」の後に聴くと、その似た曲調に驚くと共に、同時期のクラプトンに似ているとも感じるタイトル・トラックの⑥「Lost in Austin」。
このアルバムは静と動、交互に曲が収録されています。このアルバムの静のパートのバラード系の曲はどれもいいですね。この曲はスワンプ系特有の味わいを持つバラード。レイドバックとはこういう音楽を言うんだなあと改めて感激。特にイントロ部分はエリック・クラプトンが憧れた世界観のような気がします。間奏のキーボード・ソロもいいし、味わい深いアレンジです。グレン・ジョンズが得意とするものでしょうか。

エンディングは初期ジャクソン・ブラウン風でフォーキーな⑩「Hey There Senorita」。
ここでの聴き所はエリック、アルバート、マーク3人によるコーラス。本作中、一番明るい曲でもあり、このコーラスは盛り上がりますね。

マーク・ベノは基本的に寡作な方ですが、ブルースを中心に今も現役でマイペースにアルバムを発表しているようです。終始一貫してやりたい音楽をやり通している感じがしますね。

いいなと思ったら応援しよう!