洞窟はフォンダンショコラだ
青木ヶ原樹海に入り、命を感じたその日。
ライトアップなどがなされていない、自然な状態の洞窟に入った。
洞窟はフォンダンショコラだ
「こちらの洞窟になります」
洞窟があるという場所がはるか下に見えて、早くも怖気づく。青木ヶ原樹海には、洞窟が数えきれないほどあるらしい。前の記事に書いたとおり、青木ヶ原樹海は2年にも及ぶ噴火活動でマグマに覆われた地だ。流れ出るマグマが空気に触れ表面が固まる。時間をかけて土に触れている部分も固まる。最後に固まるのが中に入っている部分だが、何かが押しとどめているわけではない。中身のまだ熱いどろどろとしたマグマは外へ流れていく。
この説明を聞いて、私の頭の中ではフォンダンショコラがチョコレートを流していた。
フォンダンショコラはうまく表面が固まらなければ、崩れてしまう。洞窟も、天井部分にあたる所がしっかりと固まらないと、崩落してしまうだろう。想像しただけで危険な香り満載だ。
洞窟の前の空間に降りると、すでに涼しい。上を見上げると、暖かい空気に向かって霧が広がり、日の光がまるでオーロラのようだ。
ここまで来ただけでも良かったと、入る前から“達成感”を感じる。
中に入ろうとすると、水分の関係か、虹のようなプリズムが見れるのだけれど、そんなことはつゆ知らず、最初に梯子を下りる、と聞いてまた怖気づく。そんな私はじめ参加者の心を読んでか、ガイドのめっしーさんが“映えスポット”を紹介してくれる。「ハートだぁ」
女性からは小さな歓声が上がった。
洞窟は冷蔵庫だ
気持ちが落ち着いたところで洞窟に近づく。入口に立った時点ですでに冷気を感じる。中は言わずもがな、真っ暗だ。参加者が頭につけたライトの光が頼りだ。
続く先が真っ暗だというのにそこに背を向けて梯子を下りるの…?
何でここにいるのだ?悪態をつく頭の中の思考を閉じ込めて、集中する。
梯子を下りて、他の人が降りてくるのを待つ間、先に広がる真っ暗闇を見つめて決めたことがある。それは、洞窟内では、自分を過信せず、常にどこかを持って身体を支えること。
「自分はポンコツ。洞窟内ではおばあちゃんと同じ。行けそうだと思っても絶対に過信しない」
脳内に帯状に流れるアナウンス。
ごつごつした岩をぐっと持てば、ひんやりとしているのが手袋越しにも伝わってくる。非日常感が、マックスになる。
溶岩表面が白い。氷かと思っていたら、まったく違った。溶岩に含まれている二酸化ケイ素が雨に溶け出て溶岩表面に結晶化したものらしい。なぜ冷えて固まった溶岩から雨で成分が溶け出すのかは理解できなかったけれど、表面は固まった後内部にほんのりまだ液状のマグマが残っていたなら納得できるかも?いや、やっぱりわからないな。誰かに聞ける機会があったら聞いてみよう。写真を撮ると真っ白に映っているが、肉眼ではもう少しキラキラしていた。
黒い鉄分の多い溶岩もあれば、黄土色の鉄分少なそう?と思うような岩もあり、なかなか興味深い。30分程度の体験だったが、あれだけ怖かった足場も、帰りになると足取りが軽かったのは、慣れだろうか。喜びだろうか。
驚くほどに冷えていた洞窟は昔、蚕の卵が孵化しないようにコールドスリープの場として使われていたらしい。
どう考えても、危険すぎる仕事だ。何せ私たちがしていたような軽いのに明るいライト付きヘルメットなどなかった時代なのだから。
それでも、あるものを使う先人の知恵と工夫は真似したいと思う。
洞窟を出ると、また荘厳な光が出迎えてくれる。
雨上がりでもないのに何度も出る虹にいちいち感動する。暗く色の種類の少ない場所から出てきたからかもしれない。
地上に戻ると一気に季節が巡って夏になる。冷蔵庫から間違いなく離れたのだ。
森を抜ける帰りの道では、もう高くまで登った太陽が、そのエネルギーを見せつけるように光を集めていた。
非日常がもたらす感覚
そのことしか考えていない。
でも五感が感じるすべて新鮮で、集中しているのに閉塞感がない。
洞窟の中で私が感じていたことだ。隊列を組んでいて前後で注意喚起をしながら歩いていたから、一般的な集中とは違うかもしれない。
でも、あれは間違いなく集中だった。自分の前後の空間も含めて把握しやすくなり、頭もクリアな状態だった。
新型コロナウイルスの影響で強く行動制限をしていた私は、この2年半、日常の中に常にいた。現実世界から離れたいときは小説を読んで、頭を丸ごと物語の中に漬けていた。振り返って考えると、そんな2年半の影響か、交感神経が全開になるような集中に陥ることがなかった。集中しようとするのに、ぼんやりしている、あるいはいろいろなことが同時に気になる。
それが、計らずも、洞窟に入ったことで感覚を呼び戻せたように感じている。
森林浴が瞑想やアイデア出しに良いと本で読んだことがある。
「マイナスイオンのおかげ?」「散歩のおかげ?」などと思っていたが、もしかしたら、そんな理屈は関係なく、大地とつながる。自然の営みのことだけを考えることが、地球で生まれたヒトにとって、様々な感覚を取り戻すきっかけになるのかもしれない。
めっしーさんのインスタ
実はこの樹海ツアー 田中慶子さんのオフ会でした。
勝手に山梨親善大使
本当に素敵な機会をありがとうございました。