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なぜ坂本花織選手は「やめる」と決められたのか?

フィギュアスケート世界選手権が始まる。
北京オリンピック後、坂本花織選手について書きたい、と書いた。
この記事は、1カ月間下書きに入ったままだった。なぜなら、いつまでたっても結論が書けなかったからだ。
が、今になって分かった。結論なんて出るわけがないのだ。私は本人ではないのだから。
だから私は、問いと思っている事だけをシェアしたい。

なぜ坂本花織選手は「やめる」と決められたのか?

私は主役力(自分にカメラを向けて、ドラマやドキュメントを撮るように明日の自分を思い描き実現する力のこと)を、5つの力に分けて話をしている。その中でも、ディレクター力と呼んでいる力が、今日の記事にはかかわっている。自分のできること、できないこと、好きなこと、嫌いなこと、やりたいこと、やりたくない事を知って、その上で、自分がやる事を決める力のことだ。
私は、なぜ、坂本花織選手が平昌オリンピック後挑戦していたトリプルアクセルや4回転ジャンプを「やめる」と決められたのかという問いをこの2年間常に考えていた。

坂本花織選手が魅せるのは、強みをとことん生かしたスケート

坂本花織選手の強みはスピードと確かなスケーティング技術だと私は思っている。
エッジの使い方が正確ですぐにスピードに乗ってリンクの端から端に到達する。
男子をも凌ぐスピードなのに、リンクのギリギリでバランスの取りにくい姿勢で滑り切る。
平昌前から組んでいる振付師、ブノアリショーさんは、重力?何それ?美味しいの?氷上だからって問題ある?とでも言うような姿勢を多く取り入れている。
体の筋肉を捻る、バランスを取るために踏ん張る。どちらもスピードが落ちて然るべき。他のリショー振付の選手を見ていると、かなり苦戦しているように見える。しかしながら、坂本花織選手は平昌オリンピック後の4年間でも、よりスピードを増し、体幹を鍛え、ブノアリショーさんの理想を体現しているように見える。
さらに特筆すべきは、それだけスピードを出しながら氷に対して非常に柔らかく接しているところだ。北京オリンピック、ショートフリー共に力強いプログラムだったと思う。見事に表現していた。その実、所作含め、繊細でジャンプやステップ、スピンにおけるランディング全てソフトなのだ。力強さはスピードと上半身、全身の動きで表現していたと思う。
その全てを実現しているのが中野園子コーチの教える確かなスケーティング技術なのだと感じている。技術があるから、ジャンプですら表現の一部になっている。ジャンプ前と後でスピードがほとんど落ちないこともさることながら、ジャンプの仕方もわずかに変えている。
平昌オリンピックの映像を見返していても思う。
ショートプログラムとフリープログラムで同じジャンプを跳んでいても、フリープログラムの方が“ふんわり”“ソフトランディング”なのだ。
本人が意識的にしていたのか、振付師やコーチの指導なのか、本能的なものなのかわからないけれど、流石にトップ選手でもジャンプの表現まで変えるのは難しい。それでもやってしまえる技術が平昌オリンピックからあったと言うことだ。

技術があるから高みへ挑戦

平昌オリンピックの後、坂本花織選手はトリプルアクセルや4回転に挑戦する。ロシアの選手は、トリプルアクセルよりも4回転を先に跳ぶ選手が多い。ファンとして観ていて、坂本花織選手は4回転の方が早く習得できそうだなと思っていた。
が、この「他にやらなければいけないことがある」と言う状態が、坂本花織選手の調子を落としてしまった。練習ではどちらもしていつつ、成功確率が低いから、以前からの構成に。
その繰り返しがミスを誘う。できるはずのことができない。本人もコーチ陣も苦悩の日々だったと思う。
そして、坂本花織選手は決めた。
トリプルアクセルも4回転もなしで北京オリンピックへ向かうと。

挑戦したからこそ「やめる」と言う選択

やってみて、苦悩の日々があったからこそ、吹っ切って決定することができたのではないか。
2020年のシーズンを見ていて、考えていた。
そして持ちうるカードの中で坂本花織選手をより評価してもらいたいと考えたブノアリショーさんは、構成の難易度を上げる提案をする。
まず失敗の許されないショートプログラム。
・ジャンプは3本
・アクセルジャンプは必ず入れる
・連続ジャンプも必ず入れる

と決まっている中で、
・単独の3回転の中で最も基礎点が高いが坂本花織が苦手なルッツジャンプを入れること
・連続ジャンプを基礎点が1.1倍になる最後に持ってくること
最後に跳ぶということは、リカバリーができない。100%の確率で必ず連続ジャンプにする必要がある。坂本花織選手は2年かけてルッツジャンプのエッジエラーがつかなくなるまで仕上げ、最後のジャンプを確実に連続ジャンプにした上で、その出来栄えを2本目の方が高く上がる、曲調を邪魔しないタイミングで、さらに滑らかなランディングを持ってジャンプを流れに溶け込ませ、最大限上げる。

昔、構成を上げなくても出来栄え点の高いジャンプを跳ぶと言われた女子選手が何人かいたが、「何をもって?」と思ったことも少なくない。坂本花織選手のジャンプは、わかりやすく出来栄えが良い。
誰にも文句のつけられないジャンプだと感じてる。

「やめる」と決めるのに大切なこと

坂本花織選手を観ていて、改めて「決めてしまう」ことの大切さを考えた。頭のどこかに「あれをやらないといけないのに」というのがあると、自然にモヤモヤが発生し、頭の何処かのリソースやエネルギーが使われてしまう。それが現状行っていることのパフォーマンスを下げてしまう可能性がある。
だから私は「自分を主役として生きるにあたり」ディレクター力をつけてほしいと話し続ける。ただ、やめるにしても大切なことが3つある。それは

・やってみること
・他にカバーするような“強み”を明確にすること
・“強み”を磨き続けること

やってみなければ“やりつづけた未来”をいつまでも考えてしまう可能性がある。また、“強み”がないとこれでいいのか?と不安になる。強みを明確にすることで、やりたいこと、やるべきことを決め、邁進できる。そして最後に強みをおごることなく磨き続けること。たとえその強みが「マイペースであること」だったとしても、磨き続けることで見えてくるものがある。

今日から始まるフィギュアスケート選手権が、楽しみで仕方がない。

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北山 悠【主役力で小さな経営はうまくいく】
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