連載《教え子03~塾講師と生徒~淡くてほんのり苦い物語》
春期講習というのは、受講科目数によって異なるが、多くの科目を受講する生徒は半日くらいを塾で過ごす。
彼女は、5科目を申し込んでいた。だから、午後1時からたっぷり5時間、午後6時まで滞在することになる。
教える側にとっても、例えて言うなら、夏の甲子園が開催されている間、ホームグラウンドに変えることができず、ずっと遠征になる阪神タイガース並みに、気力と体力を要求される。
しかも、小4から高3までを教えるとなると、もうこれは既に拷問である。
更に追い討ちをかけるように彼女に心を乱され、初日からヘトヘトになって職員室に戻ると、山のように机の上が小テストが積まれていた。
明日までに採点し、パソコンにデータを入れ、他の講師と生徒の様子について申し合わせを行わなければならない。
早速、小テストの採点に手を付けた。午前中は新小4から新小6の国語。小テストは漢字テストと決まっている。たまに、どうすればこんな漢字を発明できるのだろうかと感心してしまう珍回答があって、これはこれで面白い。面白くないのは採点の効率を考えて作られている中学校以上の採点だ。選択問題のため数字やアルファベットだけを見て◯・×を付けていく。
新中2の受け持ちクラスの順番になった。頭が少しだけグラッとした。ああ、彼女の答案用紙がこの中に含まれている。7枚目に出てきた。
名前を確認。玉城彩子。丸まっこい字。さっきの授業がフラッシュバックする。ウルウル、キラキラした眼。焦って空中分解寸前の俺。苦虫を噛む思いで採点に入った。
問題は全部で10問。
1問目、◯。ウッシ、いいぞ~。
2問目、◯。やるじゃん?
3問目も◯だった。よしその調子だ。
4問目、◯。
ホイホイホイときて、結局、最後の10問目まで全て◯だった。
いやったあ! ウワーオ!
「100点!Very Good!」と書こうとした瞬間、ん?
欄外にメモが。。。
「先生の下の名前、丈でしょ? (^o^)/」
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