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車椅子の隣で歩く

彼が仕事中に事故をして歩けなくなり丸三年が経った。長かったようなあっという間だったような時間だった。恐らく彼は今までの価値観とか人生が丸ごと全て劇的に変わる程の衝撃だっただろう。

バリアフリーの家に引っ越しをし、彼はもうトイレもお風呂も一人で全部出来る。車椅子に乗って、一人でスーパーに買い物に行っては色々な食材を買ってきてくれる。私が普段買わないようなちょっと良い肉とか魚とか調味料。それをまた美味しく料理してくれる。私よりも、丁寧に丁寧に料理をする彼の作るご飯に胃袋を掴まれている。

大怪我をした彼は今でも体調の悪い日は、一日中寝たきりになってしまう。気候の変化に敏感になり、近くで雨が降っているだけでも足の神経痛が酷くなり何も出来ないそうだ。私も彼の具合が悪い日は、無理に起こそうとせずにそっとしておく。

狭い家に二人で住むと色々な衝突が起こる。体が不自由になり色々な事が上手く出来ず、イライラしている彼に幾度となく八つ当たりをされた。
「お前も歩けなくなったら、俺の気持ち分かるわ」
と、よく言われた。私だったら手の届く場所も車椅子に座ってる彼には届かなかったり、私にとっては難なく出来る事も足が動かない彼には、とても時間が掛かってしまう。

酷い言葉で罵り合った日も、同じ屋根の下にいる。どっちかが折れるしかない。私の場合は怒りを出し切ったら、もうどうでもよくなる。
次の日にはうっかり、
「カレー作ったけど、食べる?」
とか、聞いてしまうのだ。

そうやって沢山の時間を共有しながら、人と人は家族になっていく。何も出来なくても、そこに存在するだけで人はその場所を温かく照らしている。支えているようで、いつも支えられている。

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