毎日400字小説「私の敵は」
「今日お子さん大丈夫なんですか」向かいの席の美奈が訊いてきた。「え、門内さん、お子さんいらっしゃるんですか」私の隣の村西君が、びっくりしたような声をあげる。あーあー、またこれだよ。飲み会に参加すると必ず言われるその言葉に、お父さんの場合でも言うのかよ、この野郎と、内心ムカムカしていた私だったが、それを言ってくるのは必ず女で、そしていい男がいる場であるということに、いつだったか気づいた。未婚の女は、既婚の女がよその男に手を出すのが許せないのだ。だから、こちらを気遣うふりをして、対象外であるということを、早々に周囲にわからせる。いやー、腹立つねえ。ライバルが一人減ったところで、自分のほうに向くとは限らないのに。おひとり様おひとつまでですか。「今日は夫が見てくれてる」「いい旦那さんですねー」というくだりが嫌で嫌でたまらない私は、自分が責任を取らなくていい分、案外、既婚女もモテるということも、知っていた。