事実より真実が大事。ラ・マンチャの男の言葉


最近、ミュージカル「ラ・マンチャの男」を観ました。

小説「ドン・キホーテ」をもとにした作品で、主人公は騎士道物語を読み過ぎて自らを伝説の騎士と完全に妄想してしまって、遍歴の旅に出るというストーリーです。

「ラ・マンチャの男」の中で、主人公のドン・キホーテが次のような印象的な言葉を語るシーンがあります。

「事実より真実が大事」

彼は、旅の途中で、鍋のふたを見ては、「これは伝説の兜だ!」と言ったり、宿場に泊まるとそこはお城で、そこで働く女性を姫と言い、姫を物語を投影してとても素晴らしい人だと信じ続けます。

周囲の人間はそんなドン・キホーテをバカにし、「目を覚ませ」、「事実をみろ」と迫るのですが、それに対して彼は上記のように「事実より真実が大事なのだ」と自ら見ているものが確かであり、真実なのだと語るのです。

ユング派の臨床心理学者として有名な河合隼雄さんは著書の中で、

”生きるとは、自分の物語をつくること”

だと言っています。同じく慶応大学教授の前野さんも、「脳はなぜ心を作ったのか」、「死ぬのが怖いとはどういうことか」等の著書の中で、同様のことを主張されています。

前野さんによると、人間の脳は生存のために過去や未来を記憶したり推測する機能が備わったと考えられており、記憶を確かにするために「事実」を「自分の物語」に変換して記憶に留める作業を行うのだそうです。

つまり、人は周りがどう思うか、あるいは事実がどうだったかではなく、自分の物語(真実)として世界を認識し、大事にするということのようです。

つまり、人が感じる世界においては、唯一の事実というものは存在せず、人の数だけ物語があり、正しさがあるということです。

この視点を持つことはマネジメントを考える上でも有益のように思います。

経営をしていると、メンバーの未熟さに気づいてもらったり、モチベーションを上げてもらおうとマネジメントや教育に腐心することになります。

なんとかして、自分の見えている世界を相手に理解してもらおうと多くの方が苦労しているように思います。

しかし、相手には相手の真実があるということに立つと、一つの真実を相手にも求めることがかなり難しいことだと感じます。

正しさのぶつかり合いとなり、仮にどちらかの正しさで押し通せたとしても、相手に解消されていない不満が残り、時間をおいてまた同じ問題が出てくるということもあります。

解決するためには、お互いが自分の持っている真実、物語を語ることで、過去、現在、未来の捉えなおしをすること、物語をつくりなおすことが必要になってくるように思います。

その時はじめて、自分の見た世界と相手の見た世界が交わって、異なる物語が生み出されるということなのかもしれません。

また来月もよろしくお願いします!

2015/10/31 VOL65                                                                                         sakaguchi yuto

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