【読書】対立の炎にとどまる
本書は対立との向き合い方について書かれています。
原著のタイトルは「sitting in the fire」。対立を解消するには、その中に座ることと主張しています。
このアプローチは、日常私たちが考えている対立との向き合い方とは違い、解決のための方法論や技術論ではない、対立の本質的な理解を試みようとしている、迫力のある本です。
ちなみに本書で扱う対立とは、人と人との間の関係性において起こる小さないざこざから、国家間の戦争のような大きなものまで含みます。
たとえば夫婦の間のケンカや、会社の中での上司部下、部署間のコミュニケーションの中に起きる問題、それから民族間の対立や差別など、あらゆる対立の問題に通じる気づきをもらえる内容となっています。
そのため、マネジメントをされている方で、社内のコミュニケーション、組織風土に課題を感じる方にとっても非常に参考にしていただけるのではと思います。
ところで、皆さまは普段、対立にどのように対処していますでしょうか?
第三者が間に入ってお互いの言い分を聞き、“まあまあ“と、対立をおさめようとしたり、どちらか権力や力が強い人が押し切ってしまったり、折衷案で妥協したり、合理的な解決策を提示して収束させたりということが一般的な対処であると思います。
しかし、このような対処はもしかしたら表面的なもので、問題を解決しないばかりか、将来に火種を残すことになっているかもしれません。
私たちは、居心地の悪い、対立の状態が嫌で、一刻も早くその状態から抜け出したいと、表面的ににその場をおさめてしまおうとしているのではないかと思わされます。
著者が主張していることは、対立と腰を据えて向き合ってみることです。
本書の中では著者自身が実際に立ち会った様々なエピソードが紹介されていますが、いずれも、話し合いがヒートアップし、誰かが怒りを爆発させたり、泣いたりと、感情があらわになったときにこそ、そこにぐっと介入をしていきます。対立をおさめようとするのではなく、何が起きているのか、紐解こうとしていくさまが非常に新鮮で読み応えがあります。
対立の背景には無自覚な攻撃や、差別、偏見などがあります。そして、それは心理的なものにとどまらず、政治、経済、社会の影響を受けているということも教えてくれます。表面的に起きている事象の背景にどれだけ気づきをもっているか。そのことが対立の解消につながっていくこともわかります。
本書の中で、対立に向き合う新たなリーダーシップのあり方を「エルダーシップ」という言葉で表現しています。
近年は、自身と相いれない考えに出会っても、距離をとって干渉しないという社会になってきているように思います。そのような時代において、異なる考えを持つ人といかにコミュニケーションをとっていくか、対立をうまくマネジメントできるかは重要性を増していくように思います。
是非手に取っていただけたらと思います。