主体的に動いてほしいが、本人たちのやる気がない。という経営者の悩み
ある会社で、他の会社を見学しに行き、良いところを学ぼうという話が持ち上がったことがありました。
ある日の経営会議で経営者が発案し、日頃現場で課題に思っていること、どこに学びに行きたいか等いくつかの観点で各部署がまとめて提出するということに決まりました。
しかし、期限が過ぎても一部の限られた社員からしか発案がありません。経営者としては、皆が改善意欲をもって、主体的に「こういうことを聞きたい」とアイデアを出してくれたら、、、という期待がありましたが、もろくも崩れ去りました。
経営者はこの状況をみて、「やはり意見を出してくるのは一部のメンバーばかり。他の社員もやる気になってくれるにはどうしたらよいのか、、、」とぼやき、「このまま待っていても意見が出るのは難しい。ある程度こちらで決めてしまって見学に行かせよう」ということになりました。
このようなケース、他でも見られないでしょうか。
経営者の方からは、「本当は自分たちで自主的に動いてほしいが、本人たちのやる気がない。どうやってモチベーションを上げさせたら良いか」という悩みをよく伺います。
コーチングのテーマとしても、このように「部下をなんとかしてほしい」という相談から始まるケースが多くあります。
世の中にはこの悩みに対していろんな手法があるかと思いますが、システムコーチングのアプローチでは、このような課題を部下「個人」の問題として扱わないということが一風変わった特徴的なところです。
たとえば、上記の見学の例で言うと、この会社は、
①経営者が提案をし、部下に意見を求める
②部下が明確に回答を返さず、黙ってしまう
③経営者がしびれを切らし、最終的には指示命令をする
このパターンが組織の文化として根付いています。
そして、このパターンが繰り返されていることに問題意識を持ちながらも、仕方なく、同じ意思決定が行われています。しかし、少し立ち止まってみると、これが繰り返されること自体が結果的に、組織がまた同じ決定をする引力を強めているということに気づきます。
つまり、受け身である社員側だけでなく、それを待てない経営者もその状態を起こすための片棒を担いでいるというわけです。
組織にいつもお決まりで、皆が実は無意識に理解していることがあります。
組織開発の世界ではそれを「elephant in the room」と例えたりします。
とても大きな象が部屋の中にいるのに、誰もあえてそのことを指摘したり、触れずにいる状態をあらわしています。
積極的でない社員に変わってもらおうと、モチベーション研修やリーダーシップ研修などを受講してもらうことはよくあります。しかし、
・研修から戻ってきてしばらくはやる気があるが、結局元の行動パターンになってしまう。
・問題のある社員が辞めても、また違う社員の中で似たような問題が起きる
ということはよく起きます。
それは、個人のやる気や能力で解決できる問題ではなく、上記のような組織のパターンを変えていかないことには解決しない、コミュニケーションの構造に起因するテーマだと考えられるでしょう。
「なぜ、いつも同じパターンになってしまうのか」というテーマに皆で正面から取り組んでいくと、問題がなぜ消えないのかということに辿り着くことができるかもしれません。
このテーマに向き合っていくと、
「どうせ、意見を言っても聞いてくれないよ」
「最後まで責任感をもってやりきる覚悟がない」
等々、(これまでいつも同じパターンになっただろ)という諦めとか皮肉とか、ネガティブな声がたくさん出てくるかもしれません。
そのことで、時には場が混乱したり、荒れるということにもなるかもしれません。しかし、このような組織の中にある本音が表に現れてくることが、パターンに気づくことの入り口になります。
そこにあるものを皆で気づいていくと、組織全体がどんな構造になっているかが立ち現れてきます。そのようなところから、組織は少しずつ変化を始めるのです。
また来月もよろしくお願いいたします!
2016/5/31 VOL71 sakaguchi yuto