春日太一『時代劇入門』個人的書評

2020年5月1日読了。

「時代劇って古臭い」。そんな言葉をこの人生の中で何度聞いたことだろうか。小学生の頃、家に帰った夕方ごろ、テレビの再放送でやっていた「水戸黄門」や「暴れん坊将軍」などを熱心に観て、「やっぱり水戸黄門は西村晃が好きだな」とか「爺やは船越英二がいいな」なんてそんなことをその頃からやっていた。今考えても奇特な小学生だが、同級生や親からも異端扱いされていたような気がする。決していじめられていたわけではないけれども。

そんなせいぜい十数年前ですら所謂「時代劇は老人の見るもの」、「終わったコンテンツ」という扱いを受けていたのだ。しかし、世の中の人はそのようなステレオタイプを抱いているために、結局のところ『時代劇』とは何なのかを知らないままに人生を歩んでいるのである。

そんな人にこそお勧めしたい。『時代劇』というものの本当の姿はなんなのか、『時代劇』にはどんな面白さがあるのか、その要素を新書一冊に凝集させたのが本作である。

時代劇とはそもそもエンターテインメント作品、それも映像作品と呼ばれるものの一ジャンルである。具体的な定義はそれぞれの評論家ごとに千差万別であろうが、本作の著者である春日太一氏は「西南戦争終結以前の日本、および日本らしき場所を舞台にした映像作品」(p41部分抜粋)としている。それはさておき、重要であるのは時代劇がそもそも「エンターテインメント作品」であるということである。すなわち重要視されるのはNHKの大河ドラマや歴史劇と言われるような作品における史実性ではなく、いかに「カッコいい」かという事。著者がよく使っているイメージのある言葉で言えば、どこまで「粋」なところを魅せられるかという所に作品のすべてが懸かっていると言っても過言ではない。

尾上松之助(本作に言及があるのでここでは説明は省略)などが活躍していた1930年ごろから2020年まで約100年の歴史がある映画・テレビにおける時代劇の中では、様々なヒーローが星の数ほど誕生した。社会的な身分や容貌、性格も十人十色、正統派ヒーローからダークヒーロー、または悪役に至るまでの内にきっと本作を読んだ人にピッタリの「推しキャラ」が時代劇でも見つけられるはずだ。

他にも、本作ではネットなどにも数多ある評論や時代考証(時代考証警察とでもいった方がよいか)との向き合い方、時代劇の簡単な通史、代表的な俳優から作品の簡単な特徴解説に至るまで幅広い内容が紹介されている。さながら、この本を開けば時代劇の大体のことが分かるという「時代劇の百科事典」とも言うべき名著であると感じる。

そして、巻末には時代劇における最も重要な要素の一つである剣戟、すなわち「チャンバラ」の見方と魅力について大いに語られている。また、『機動戦士ガンダム』シリーズの生みの親である富野由悠季氏の特別インタビュー、二人の間で交わされる殺陣論にも注目だ。言っていることは一見ハチャメチャというか、情熱が先走って分かりにくい印象も受けるが、実に芯を捉えた対談が行われている。挙げられている作品を横目に見つつ、読んでみるとまた理解が深まるのではないかと思う。

本作を読まずして「時代劇」を語ることなかれ。著者の計り知れない情熱がこれでもかと込められた、「魂の一冊」である。

https://www.kadokawa.co.jp/product/321805000140/

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