発達障害と病理水準とカウンセリングと心理療法について
発達障害
発達障害は、身体や、学習、言語、行動において一連の症状を持つ状態で、症状は発達中に発見され、通常は生涯にわたって持続する障害の総称です。
これから、代表的な発達障害を取り上げます。
(1)自閉症
自閉症はカナーによって報告された発達障害であり、3歳ごろまでに周囲の大人によって発見されます。原因は中枢神経の機能障害だと推定されています。特徴として以下のようなものが取り上げられています。
・言語発達の遅れが著しく、おうむ返しのような表現が多い
・呼びかけに応答せず視線も合わせようとしない
・対人関係を作ることが困難である
・上半身を前後に揺すったり意味のない日課や儀式に固執する
(2)高機能自閉症
一般に自閉症は知的障害が伴うと言われていますが、時として特異な能力をします人がいます。そこで近年、自閉症の中で知的発達の遅れを伴わないものを高機能自閉症と言います。
(3)アスペルガー症候群
自閉症の特徴のうち、知的発達や言語発達の遅れが見られないもの。
(4)自閉症スペクトラム
(1)から(3)の総称を自閉症スペクトラムと言います。
(5)ダウン症
ダウン症とは、染色体異常によって生じる病気です。ヒトの正常の体細胞(デイプロイド)では、22対の常染色体と1対の性染色体があり、合わせて計46本の染色体を持っています。しかし、ダウン症では21番の染色体が通常2本のところが3本になっているトリソミーを示し(標準型ダウン症)、それにより各種症状が認められるようになります。ダウン症では、筋肉の緊張低下・特徴的顔貌・成長障害などが見られ、全体的にゆっくり発達します。心疾患などを伴うことも多いのですが、最近では医療や療育、教育も進んでおり、多くのお子さんが学校生活や社会生活を送っています。
(6)学習障害(LD)
学習障害とは、「読む」「書く」「聞く」「話す」「計算する」「推論する」のうち、いずれかまたは複数の能力に困難がある状態のことをいいます。原因は中枢神経系の機能障害とされています。知的面の遅れはなく、一見順調に育っているように見えるため、小学校に入学して勉強を始めるまでは症状に気づかないことがほとんどです。
比較的軽度な発達障害といわれていますが、ADHD(注意欠陥多動性障害)や自閉症スペクトラムなどが併存している例も多く見られ、適切な対応が求められます。また、本人の意欲低下などにより、引きこもりや不登校などの二次障害が起こる恐れもあるため、周囲が理解し、関わり方を考えていくことが大切です。
(7)注意欠陥・多動性障害(ADHD)
不注意(集中力のなさ)、多動性(落ち着きのなさ)、衝動性(順番待ちができないなど)の3つの特性を中心とした発達障害が6ヶ月以上続くものを注意欠陥・多動性障害と言います。
ADHDは7歳までに発症し、幼稚園や学校生活のさまざまな場面で、3つの特性から来る行動が確認されます。ADHDに関連した症状は短期間で消失するものではないため、学業や友人関係の構築に困難を覚えることがあります。
病理水準
(1)境界性人格障害(ボーダーライン)
境界性人格障害は、大多数の人とは違う反応や行動をすることで本人が苦しんでいたり、周りが困っているケースに診断される精神疾患です。認知(ものの捉え方や考え方)や感情、衝動コントロール、対人関係といった広い範囲のパーソナリティ機能の偏りから障害(問題)が生じるものです。注意したいのは、「性格が悪いこと」を意味するものではないということです。
(2)統合失調症
統合失調症とは、思考や行動、感情を1つの目的に沿ってまとめていく能力、すなわち統合する能力が長期間にわたって低下し、その経過中にある種の幻覚、妄想、ひどくまとまりのない行動が見られる病態である。能力の低下は多くの場合、うつ病や引きこもり、適応障害などに見られるものと区別しにくいことがあり、確定診断は幻覚、妄想などの症状によって下される。幻覚、妄想は比較的薬物療法に反応するが、その後も、上記の能力低下を改善し社会復帰を促すために長期にわたる治療、支援が必要となる。
(3)躁うつ病
双極性障害は、気分が高まる「躁(そう)状態・軽躁状態」と気分が落ち込む「うつ状態」を繰り返す精神疾患です。この特徴から、かつては「躁うつ病」と呼ばれていました。
躁状態のときには、不眠不休で活発に行動できたり、どんどんアイディアがひらめくなど、仕事の成果につながることがあります。その反面、声や態度が大きくなったり、それまでの人間関係を壊してしまうような短絡的な振る舞いをするなど、周囲を巻き込んでしまい、本人にとってマイナスに作用することもあります。
一方うつ状態になると、一変して、すべてのことに対して無気力な抑うつ状態になり、起き上がることができないなど、日常生活に支障をきたします。
カウンセリング
カウンセリングとは、依頼者の抱える問題・悩みなどに対し、専門的な知識や技術を用いて行われる相談援助のことです。その種類には以下の3つがあります。
①指示的カウンセリング(臨床的カウンセリング)
ウィリアムソンが提唱したカウンセラー主導によるカウンセリングが指示的カウンセリングです。クライエント(相談者)が悩むのは適切な情報が不足しているためで、正しい情報を与えれば解決に向かうと考えから行われるものであります。学校での進路相談はこの傾向が強いかもしれません。
②非指示的カウンセリング(来談者中心療法)
クライエント自らが問題を解決することを重要視した方法が来談者中心カウンセリングである。ロジャーズが提唱。一般にカウンセリングという場合はこちらの方をさすことが多い。
自分はこのような人間である、という「自己概念」を、実際の「経験」のズレが大きいときは歪曲が生まれ、不適応の人格とされる。自己概念を変えていくことでこのズレを少なくしていこうというのが来談者中心カウンセリングの目的となります。
ロジャースはクライエントが変化するために必要にして十分なカウンセラーの条件として3つ挙げました。それが以下の自己一致、無条件の肯定的関心、共感的理解です。
自己一致
カウンセラーが治療関係の中で自由に自分らしくあり、かつ自己の経験が正確に気づかされる状態
無条件の肯定的関心
条件抜きで相談者の話を聴き、相談者の経験を温かく受けとめること。
共感的理解
相談者の感情を自分自身のことであるかのように感じること
ロジャーズはカウンセラーが以上の3つの条件を達成、維持できたときにク相談者とカウンセラーの間に信頼関係(ラポール)が発生し、有益な効果が現れるといいます。そのような姿勢をカウンセリング・マインドといいます。
このとき、注意しなければならないのは、「はい」「いいえ」でしか答えられない閉ざされた質問よりは、「どのようなことがあったのですか」というように、相談者の言葉で具体的内容を引き出せる質問である開かれた質問が良いとされています。このとき、無理して話を引き出したりせず、また沈黙も必要であることを認識しなければならない。
③折衷的カウンセリング
ソーンが提案したものであり、①と②を効果的に組み合わせる方法です。
この方法だと、カウンセリングのはじめは、②の方法を採用し、効果が薄くなると①へ移行するというものであります。
心理療法
心理療法とは、心理学的な手段や技法によって、症状や状態をやわらげたり、治したりするものをいいます。
(1)精神分析療法(フロイト)
フロイトの精神分析理論に基づいた心理療法で自由連想法や夢分析があります。
例えば、自由連想法とは、ある言葉(刺激語)を与えられた時に、心に浮かぶままの自由な考えを連想していく発想法です。刺激語と連想語の関連を分析し、潜在意識を顕在化する事によって心理的抑圧を解明します。
(2)行動療法
行動療法とは、心理学において実験的に確立された学習理論に基づいて不適応行動を治療しようとする試みをいいます。アイゼンクが提唱しました。
①系統的脱感療法
恐怖や不安を抱えている人にカウンセラーが接した際、その人の恐怖や不安を受け止めた上、その人が弱く感じる恐怖や不安から強く感じる恐怖や不安を具体的にイメージしてもらい、弱いものから強いものまで状況別に0~10までの階層で表現(不安の点数化)、『不安階層表』を作成して、一番弱い状況から順番にイメージ体験させていき、段階的にその刺激に慣れさせていくという技法です。
②自律訓練法
段階的に自己暗示の練習を行うことで、緊張をとりのぞき心身を好ましい状態にする。心身症・神経症などの治療やストレス解消・健康増進などに用いられます。1932年シュルツ(J.H.Schultz)が提唱しました。
(3)遊戯療法
子供を対象に、遊びを主なコミュニケーション手段、および表現手段として行われる心理療法をいいます。
(4)箱庭療法
セラピストが見守る中、クライエントが自発的に、砂の入った箱の中にミニチュア玩具を置き、また砂自体を使って、自由に何かを表現したり、遊ぶことを通して行う心理療法です。
(5)集団精神療法
①心理劇(サイコドラマ)
J.L.モレノが考案したものです。対人関係から生じる情動的な問題を解決する目的で,患者が参加した劇が行われる。まず問題場面が設定され,患者が主役となり,それに相手役と観察者が加わって自由に即興的演技が行われます。それに続いて全員による批判がなされ,再び演技が行われます。これにより患者は問題場面に適応する反応の仕方を学習します。
②エンカウンター・グループ
ロジャーズ,C.が開発した集団心理療法の1つです。「エンカウンター」とは出会いの意であり、エンカウンターグループは、メンバーがそれぞれ本音を言い合うことにより、互いの理解を深め、また、自分自身の受容と成長、対人関係の改善などを目指すものです。
形態としては、あらかじめ課題などは用意されておらず、フリートークを主体に行われる非構成的(ベーシック)エンカウンターと、用意された課題にもとづいて進めていく構成的(グループ)エンカウンターとに大別されます。
非構成的エンカウンターは、感じたことを本音で思いのままに話し合っていくもので、ファシリテーターという進行役により進められます。
一方、構成的エンカウンターは、リーダーから与えられた課題をグループで行う「エクササイズ」と、その後グループでそれぞれが感じたことを言い合う「シェアリング」によって構成されます。
③ソーシャル・スキル・トレーニング
「ソーシャルスキル」とは 対人関係や集団行動を上手に営んでいくための技能(スキル)のことです。言い換えれば、対人場面において、相手に適切に反応するために用いられる言語的・非言語的な対人行動のことで、その対人行動を習得する練習のことを「ソーシャルスキルトレーニング」といいます。
ソーシャルスキルトレーニングは、対人関係や集団行動を上手に営むための技能(スキル)を養います。発達障害のあるお子さまにとって、スムーズなコミュニケーションは困難です。このトレーニングでは相手に適切に反応するための言語的、非言語的な対人行動を訓練します。
ソーシャルスキルは、多くの人と関わることで身につくものです。ほとんどのお子さまは周りの人の行動を見聞きするなどの観察学習で、自然にこのスキルを身に付けます。しかし、発達面にアンバランスな部分のあるお子さまはそのスキルの習得に困難を抱えており、集団生活の中で適切な人間関係を築くことが難しいものです。
ソーシャルスキルを身につけることを目的としたソーシャルスキルトレーニングは発達障害の改善の面でも注目されています。
④アサーション・トレーニング
アサーションとは、英語で「自己主張」という意味です。相手の考えを尊重しながら、対等に自己主張をしていくコミュニケーションスキルを指します。アサーティブなコミュニケーション、アサーティブネスとも言います。
感情をそのまま爆発させて相手を言いなりにしたり、また逆にむりやり抑え込まれたりされることなく、気持ちをきちんと言葉で表現しながら、しっかり自分の考えを伝える方法です。
⑤森田療法
森田療法は、森田正馬(もりたまさたけ)によって創始された神経症に対する独自の精神療法です。
患者さんが症状へのとらわれから脱して「あるがまま」の心の姿勢を獲得できるよう援助します。「あるがまま」の姿勢とは、不安や症状を排除しようとする行動や心のやりくりをやめ、そのままにしておく態度を養うことです。さらには、不安の裏にある、よりよく生きていきたいという欲望(生の欲望)を建設的な行動として発揮していくことをも意味しています。こうした行動を通して、自分を受け入れ自分らしい生き方を実現することが森田療法の最終的な目標になります。