Zenkigen Lab @超異分野学会
背景
今回は、ZENKIGEN.Labが超異分野学会 北海道フォーラム2022で発表した研究について紹介します。発表タイトルは、「二者間の対話による創造的アイディア生成プロセスの質的分析」です。
研究について
現代のビジネスシーンでは、人々が協働して「新しく価値のあるもの」を作ることの重要性が繰り返し指摘されています。私たちは、この問題に創造性という観点からアプローチすることを試みました。
近年の多くの研究では、課題を通じて創出されたアイディアの個数や、そのアイディアのばらつきに焦点を当てた量的なものでした(三浦ら 2002; Paulus & Nijstad 2003; Tadmor et al. 2012; ⻑谷ら 2018な ど)。こうした研究では、アイディアの量と人々の性格やジェンダーバランスといったものとの関連性を明らかにすることに主眼が置かれてきました。
一方で、近年は「対話(dialogue)」の過程に着目して創造性を考える必要が指摘されるようになっています(ボーム2007;安斎&塩瀬 2020など)。本発表は、この潮流を意識し、アイディアが生成される過程において、どういった行為や発話が創造的なアイディアの創出に結びついているかを具体的に分析し、アイディアの創造過程における相互作用を質的に捉えることを試みました。
分析の結果、質問の内容や聞き手の聞き方がアイディアの創出に深く関わっていたり、聞き役と話し役といった多様な役割が対話の場で形成されることによって、アイディアの創出過程が変わったりする可能性が浮かび上がりました。
超異分野学会への参加
創造性研究を行う中で、創造的対話を図式的に分析することの妥当性や、分析の進め方に関する疑問がLabの内部で提示されるようになりました。そこで、今後研究を進めていく上での新たな視点を得るため、異なるフィールドの研究者や実務家の意見を聞き、共同研究できるパートナーを探す必要があるということでLabのメンバーの意見が一致したため、超異分野学会での発表を決めました。
超異分野学会とは、株式会社リバネスが主催する学術集会です。研究者、大企業、町工場、ベンチャーといった異なる分野や業種の人たちが集まり、議論を通じて互いの持っている知識や技術を融合させ、共に研究を推進するための場です。
この学会での発表によって、これまでLabと関わりがなかった多くの人たちと積極的に議論をすることができ、新しい研究テーマへの示唆が得られました。バイオの分野の研究者には、二者間の相互作用だけではなく、自己内対話に創造性を見出す視点を頂いたり、経産省の方には、異なるステークホルダーの合意形成とコミュニケーションに興味があるとご指摘を頂きました。
また本研究への関心だけでなく、ZENKIGEN.Labとコラボレーションできる方もたくさん見つかりました。
今後
今回の学会参加を通して、創造性研究を含むコミュニケーション・相互作用の質的な研究は色々な人に興味を持っていただけました。今後は、さらに多様なアイディア生成プロセスの探求、2者間の相互作用による役割交換や役割期待の問題、複数のステークホルダーの合意形成プロセスの解明といった課題と向き合いながら、創造性に限られない多様な研究を進めていければと思っています。
参考文献
Chompunch, S., Ribiere, V. & Chanal, V. (2019) “Exploring and Modeling the Concept of Team CreaEvity” Dixièmes journées du Groupe Théma5que Innova5on de l’AIMS. Octobre.
Paulus, P., B. & Nijstad, B., A. (2003) Group Crea5vity. Oxford University Press.
Runco, M., A. & Jaeger, G., J. (2012) “The Standard DefiniEon of CreaEvity” Crea5vity Research Journal. 24(1).
Tadmor, C., T. et al. (2012) “Beyond Individual CreaEvity” Journal of Cross-Cultural Psychology. 43(3).
安斎勇樹&塩瀬隆之(2020)『問いのデザイン:創造的対話のファシリテーション』
ボーム・デヴィッド(2007)『ダイアローグ:対立から共生へ、議論から対話へ』
三浦麻子、飛田操(2002)「集団が創造的であるためには」『実験社会心理学研究』41巻2号、124-136。
⻑谷和久、中谷内一也(2018)「予防焦点は創造性課題の取り組み時に粘り強い解答をもたらすか?」『心理学研究』88巻6号、556-565
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