読書感想文の苦手意識を克服した先にあるもの
前回、学校では読書感想文に関する授業や指導がなされない状況を踏まえ、知識のないまま読書感想文に取り組むことになり、子どもたちは苦戦必至で苦手意識を助長する要因になることを確認しましたた。また、保護者も同じように育ってきたため、読書感想文を家庭任せにされても保護者自身がどのように教えて良いのか分からない状況であることもお話しました。多くの親子がそろって「苦手」と口にしますが、本当に苦手なのでしょうか?
◆「苦手」を克服
学校や塾の先生に読書感想文の基本を教えてもらった上で、他の科目と比べて自身の中で期待値・目標値に満たなければそれは苦手と言えるのでしょうが、そもそも読書感想文について理解していないわけですから苦手なのではなく、分からないから敬遠している状態に近いと言えます。
結論から言いますと、そうした苦手意識を克服する方法は、まずは基本的な読書感想文の書き方や原稿用紙の使い方を学習し、試行錯誤しながらも完成させる達成感、学校代表になるなどの成功体験を少しずつ積み重ね、まさにロールプレイング・ゲーム(RPG)のように経験値を上げていく他ありません。
1年に1回であっても、毎年継続して数をこなしていくことで読書や作文に慣れてきます。お子さまの語彙力がまだまだ乏しいのは当然で、親子一緒に取り組むことで語彙力、表現力を増やしていけばいいのです。読書感想文は、その子が現在もっている力だけで腕試しをする必要はなく、一つひとつ学びながら、家族と共有しながら作品を仕上げる考え方が大切なのです。
保護者がゴーストライターのように原稿を書き起こし子どもに写させるのは絶対NGですが、時にその子が持つ気持ちや考えを表現する方法を大人が代弁するように複数のパターンを提示してあげることは必要で、それは学年が低ければ低いほど求められることは言うまでもありません。
周りにいる同年代のお友だちも、同じように苦手意識を持っているわけですから、その中で読書感想文を得意としていくこと、自身が納得のいく作文を書き上げること、受賞する機会は、お子さまの自己肯定感情を高める効果もあります。ぜひ苦手意識から自分の強みに変えましょう。
◆読書による成長と自己変革
青少年読書感想文全国コンクールの入賞者作品を集約し毎年4月に刊行されている「考える読書」(全国学校図書館協議会編/毎日新聞出版)では、主催者や審査委員のコンクールに対しての考えが記されています。
「考える読書 第65回青少年読書感想文全国コンクール入賞作品集」(2020年04月刊行/全国学校図書館協議会編/毎日新聞出版)で中央審査委員長の新井康之氏は、次のように綴っています。
「素晴らしい感想文は、自分についてばかり語るものでも、本の内容についてばかり語るものでもない。自分と本との間に生まれた感動に目を向け、感じたこと考えたことを語っている。背伸びをすることも格好をつけることもない。読書による成長と自己変革が伝わってくる。」
例えば、小学3年生が環境問題に関する課題図書を読んで、専門用語を列挙すると不自然ですよね。等身大のまま子どもらしい視点や発想を随所に散りばめながら、お子さま自身の読書前・読書後の変化や成長を、作品を手に取った読み手、つまり学校の先生や審査委員に伝えることが何より大切です。
◆教育的視点から見る読書感想文の重要性
少し視点を変えて読書感想文に取り組むメリットについて考えてみましょう。
読書から得た様々な情報を、自身の環境や体験、そして社会を結び付けて言語化する作業は、家庭でできる最高のアクティブ・ラーニングであり、シチズンシップ教育です。
アクティブ・ラーニングとは、従来の「受動的な授業・学習」ではなく「積極的・能動的な授業・学習」を意味し、お子さま自身が能動的に学ぶことによって、また対話によって、認知的、倫理的、社会的能力、教養、知識、経験などの汎用的能力の向上や育成を目指します。世界は目まぐるしく変容していますが、次々と変化する社会に適応しなければなりません。そこでは、自ら判断し行動していく力、情報にアクセスし必要な情報を抽出していく力、自身の経験や考えを言語化し他者に伝える力、多様な社会のなかで自己を位置づける力を育むことが求められています。
次にシチズンシップ教育とは、市民として必要な素養を備え、市民としての役割を自ら考え、果たせる人材を育成する教育です。例えば平和問題、貧困問題、環境問題などの地球規模の課題を、自分が生活する国や地域の課題を自分事として捉え、その課題解決に向けて取り組むことのできる市民を育むことを目指しています。
読書感想文という営みは、まず読書を通じて自分が未だ見知らぬ新しい世界や文化と出会い、知的好奇心を呼び起こし、探求心を持って自ら調べ学んでいきます。そこでは時に自身や自身の体験と社会問題を結び付け、自分にできることや目標を熟考します。そして対話を通して、自分の思いや考えを親やきょうだいに伝え、また自分とは異なる多様な価値観に触れます。最後には、それらの営みを集約し、自分の気づき、体験、変化、目標などを言語化していくのです。まさに、先述したアクティブ・ラーニング、シチズンシップ教育なのです。
◆親と子のコミュニケーションツール
また、読書感想文は親子間のコミュニケーションの場でもあります。親子で達成感や成功体験、成長を共有するなかで信頼関係を強固なものにすることができます。そして親にとっては、我が子の学習意欲、関心分野、人間関係、感性、思考、学校などでの保護者が知らない体験を知るなど、我が子への理解を深める貴重な機会となります。子どもはどんどん成長し、親元からも少しずつ離れていくわけですから、そのチャンスを見す見す逃すのはもったいないと思いませんか?読書感想文を書く機会は、有限なのです。そう考えると「あと何年、親子で読書感想文しなきゃいけないんだろうか?」ではなく、「あと何回、親子一緒に読書感想文に向き合えるかな?」とポジティブな発想に変化していくと思います。
◆読書感想文と受験?
もう一つ、中学受験を切り口に読書感想文について考えてみましょう。
受験を目の前にした親子は、受験勉強を最優先するあまり時間を多く取られる読書感想文の宿題は厄介視される、とお話を伺うことがあります。ですが冷静に考えてみると、学校では読書感想文の書き方教えてくれないのに、進学塾や通信教育では作文や小論文の専門コース(通年・夏期短期)を開設しています。それは単に宿題対策とくコンクール対策という副教科的扱いにとどまらず、読書感想文の重要性を証明していると考えます。
重要視している理由の一つ目は、全国コンクールまたは都道府県コンクールで入選・入賞した場合、中学入試、高校入試、大学入試において、学校によって変わりはしますが加点される傾向にあります。実際、都道府県コンクールや全国コンクールの入選・入賞者には賞状や盾が贈呈されますが、全国コンクール入賞者に限っては希望者に対し受賞証明書を発行(送料実費)していただくことも可能です。これは、何物でもなく受験校に自己アピールするための証明と考えて良いでしょう。
さらには、読書感想文は加点だけに有効なわけではありません。毎年読書感想文コンクールに応募してきた経験値や入賞・入選から得られた自信は、中学受験から入社試験に至るまでの論述問題や作文、小論文提出の際に力を発揮します。また読解力や表現力、語彙力の向上だけでなく、国際問題、環境問題などの社会的課題への関心も高まり、国語科に加え社会科や理科をも得意分野にすることへとつながります。読書感想文は、まさに一石二鳥の受験対策です。
ただ一つ申し上げておきますと、受験戦争に打ち勝つためや我が子を入賞させたいあまりに、保護者が度を越して舵取りをする読書感想文戦争だけは避けましょう。主役はお子さま、決めて前に進むのもお子さま自身なのです。
◆おまけ
余談にはなりますが、青少年読書感想文全国コンクールの募集要項には特筆されてはいませんが、全国コンクールにて複数回上位入賞されている保護者のブログ(「吉政忠志のベンチャービジネス千里眼」2012年08月19日…(https://blogs.itmedia.co.jp/yoshimasa/2012/08/post-117d.html)を拝読する限り、次の特典があるそうです。
全国コンクール上位入賞は、日中韓の小学生が合同で絵本を製作する海外スタディツアーに、日本代表として参加できるそうです。実施時期は8中旬~下旬の1週間、関係者、通訳士、マスメディア、入賞者による100名程度の大所帯で、その内小学生は30名程度との情報から、対象者は内閣総理大臣賞、文部科学大臣賞、毎日新聞社賞の各受賞者と想定されます。保護者の方が帯同したわけではありませんし、今から8年前のお話ですから現在の実施状況は分かりかねますが、日中韓の国際交流、そして中国や韓国のお友だちと協働する体験は、感受性豊かな子どもたちにとってたいへん稀少な機会です。私の息子も、この取り組みに対し興味を持ち、今年度は相当高い目標を持って読書感想文に臨んでいます。
今回の記事は、以上になります。次回は、少しブレイクタイムということで「青少年読書感想文全国コンクール」のシンボルマークについてのお話です。