記者クラブは広報課の下請け

 2024年11月18日に東京地裁(衣斐瑞穂裁判長)で開かれた「記者クラブいらない訴訟」第8回口頭弁論。私は、「陳述書(前編)」「陳述書(中編)」「陳述書(後編1)」「陳述書(後編2)」「陳述書(後編3)」の5通を提出している。そのうちの「陳述書(後編2)」(証拠の番号は「甲79の1」。「甲」は原告が提出した証拠。「乙」は被告が提出した証拠)の全文を公開する。

陳 述 書(後編2)

2024年11月17日

原告 寺澤有(1967年2月9日生)

【1】

「陳述書(後編1)」(甲78の1)の【2】で述べたように、2020年7月13日、訴外有村眞由美さんが鹿児島県広報課を訪れたとき、担当者は「塩田康一新知事の就任記者会見は鹿児島県が主催する」と説明しました。
 ところが、翌14日、有村さんが広報課へ電話すると、「就任記者会見も(鹿児島県政記者クラブ)青潮会が主催する」と前言をひるがえされました。

【2】

 鹿児島県知事の記者会見は、地方公共団体の首長が情報公開義務や説明責任を果たす場です。役所が役所の責任で行わなければならないもので、民間団体、とりわけ任意団体にすぎない青潮会へ委ねることはできません。鹿児島県知事の記者会見は、鹿児島県固有の業務であり、当然、主催するのは鹿児島県です。

 にもかかわらず、広報課が「知事の定例記者会見は青潮会が主催する」としてきたのには理由があります。広報課自身が「知事や職員に不都合な質問をされたくない」として、雑誌やネットメディア、海外メディアの記者、フリーランスを定例記者会見から排除したり、質問を禁止したりすれば、「鹿児島県は情報公開義務や説明責任を果たしておらず、雑誌やネットメディア、海外メディアの記者、フリーランスの取材・報道の自由を侵害している」と批判されます。

 そこで、鹿児島県のパブリシティ活動を担い(甲37、乙10)、本庁舎内の記者室を独占的、排他的に無償で利用し(乙10)、『鹿児島県職員録』にも記載されている(甲38)、ありていにいえば、広報課の下請けの青潮会を使い、雑誌やネットメディア、海外メディアの記者、フリーランスを定例記者会見から排除したり、質問を禁止したりさせてきたわけです。こうすれば、一見、鹿児島県自体が情報公開義務や説明責任、取材・報道の自由をないがしろにしているようには見えないからです。

甲37の一部。赤枠は本記事のためにつけた。
乙10の一部。赤線は本記事のためにつけた。
乙10の一部。赤枠、赤線は本記事のためにつけた。
乙10の一部。赤線は本記事のためにつけた。
甲38

〈フリーランスを差別する鹿児島県知事の記者会見〉と題する記事(甲10)や〈胸糞の悪い話〉と題する記事(甲11)を見れば、鹿児島県知事の記者会見でフリーランスの質問を禁止してきたのが広報課の意向であることは明白です。

【3】

「権力側が報じてほしくないと思うことを報じるのがジャーナリズム、それ以外はすべてPR(広報)」とは、英国の作家ジョージ・オーウェルが残した名言といわれています。青潮会が行っていることは、ジャーナリズムではなく、PR(広報)です。2000年、私は、被告の共同通信社の労働組合が編集・発行する冊子の〈「マスコミは発表だけ垂れ流せ」〉と題するインタビュー記事で、「マスコミの人間を同業者とは思えない」と言っています(甲26)。その気持ちは今も変わりません。もっとも、マスコミの人間も私を同業者とは思っていないでしょう。実際、本件妨害行為のさなか、原告の三宅勝久さんと私がジャーナリズムや取材・報道の自由について話していると、青潮会加盟社の若い男性記者から「ボクたちは会社員なので、明日から広告部へ行けと言われれば、行きます」と冷水を浴びせられました。

甲26
甲26

 本来、ジャーナリズムを行うべき個人や団体にPR(広報)を行わせるのが記者クラブ制度です。これが、権力側にとり、あまりにも都合がいいので、1890年(明治23年)の創設から現在まで維持されています。その間、マスコミが大本営発表を垂れ流し、数百万人の国民が戦争で死亡する要因となったこともあります。

【4】

 従前の被告の主張、立証を見ると、鹿児島県が「知事の記者会見は青潮会が主催する」と言っていることが、本件妨害行為を正当化する拠り所となっています。しかし、前述のように、鹿児島県は自身が情報公開義務や説明責任、取材・報道の自由をないがしろにしていると批判されないよう、「知事の記者会見は青潮会が主催する」と言っているにすぎません。

 鹿児島県が自身の責任を回避するため、自身が主催しているにもかかわらず、自身が主催していないかのように言っているのは、知事の記者会見だけではありません。鹿児島県職員と青潮会会員との飲食を伴う会合に関する公文書の不存在の審査請求が鹿児島県情報公開・個人情報保護審査会に諮問されたさい、鹿児島県は弁明書で「当該会合は県が主催」としていましたが、同審査会から「旅費、会場費及び飲食費等の開催費用が発生すると思われます。当該費用に関する書類等が不存在とされている理由をお示しください」と追及されると、「県としては、『県主催』というよりは『共催』との認識」と再弁明しています。さらに、「青潮会との懇親会については、青潮会からの開催要請に応じて、知事の意向を確認する」とも弁明しています(甲37)。

甲37の一部。県職員と「青潮会」会員との飲食を伴う会合について
甲37の一部。県職員と「青潮会」会員との飲食を伴う会合について

 なお、鹿児島県では、報道関係者との懇談会に関する公費支出、その情報公開について、1997年にも問題となりましたが、ウヤムヤにされています(甲79の2)。

【5】

 2016年10月29日の『南日本新聞』朝刊の〈三反園訓鹿児島県知事、初の定例会見は30分で打ち切り〉と題する記事(甲79の3)を見ても、鹿児島県知事の記者会見は鹿児島県が主催していることが明らかです。そもそも、三反園知事が定例記者会見を30分で打ち切ることができたのは、鹿児島県が定例記者会見を主催しているからです。記事中、「鹿児島県の三反園訓知事が就任後初めて開いた28日の定例会見は、午前10時半から11時まで30分間に制限され、質問が終わらない中打ち切りとなった」「三反園知事は7月28日の就任会見を開催。その後会見がなかったため、クラブ側が早期開催を求めていた」「広報課によると、定例会見は今後、県議会定例会開催月を除いて原則毎月1回開く方針」という記述があります。これらの意味するところは「鹿児島県知事の記者会見は鹿児島県が主催している」以外にありえません。

【6】

 2020年7月13日、鹿児島県広報課が「塩田康一新知事の就任記者会見は鹿児島県が主催する」と説明していたにもかかわらず、翌14日、「就任記者会見も青潮会が主催する」と前言をひるがえしたことは、すぐに訴外有村眞由美さんから私へ連絡がありました。

 しかし、「記者クラブが要請したので、首長の就任記者会見が開催された」「記者クラブが要請しなかったので、首長の就任記者会見が開催されなかった」などという話は聞いたことがありません。

 私は、2022年7月11日の岸本聡子杉並区長の就任記者会見、同年12月9日の森澤恭子品川区長の就任記者会見に参加して質問しています。そのさい、両区の広報担当者とやりとりしただけで、記者クラブは一切関与していません。

 有村さんから連絡を受けて、私は、鹿児島県が主催することが明々白々な知事の就任記者会見も、「青潮会が主催する」として、広報課が下請けの青潮会を使い、フリーランスを排除したり、質問を禁止したりしようとしているのではないかと疑いました。

「陳述書(後編1)」(甲78の1)の【3】で述べたように、広報課が前言をひるがえした7月14日の『南日本新聞』朝刊のインタビュー記事で、塩田氏は「定例記者会見は県民に情報発信する重要な場だと思う。双方向のやりとりを大切にしたい」と述べています。鹿児島県知事選挙で伊藤祐一郎前知事(当時)、三反園訓現知事(同)を破って当選し、「県庁改革」を掲げる塩田氏が、わざわざ定例記者会見の話を持ち出したのは、有村さんが指摘したように「事前に県庁を牽制」する意味があったように思えます。なにしろ、鹿児島県は、知事が情報公開義務や説明責任を果たす場である定例記者会見をパブリシティ活動と捉えているのですから(甲37、乙10)。

以上

いいなと思ったら応援しよう!

寺澤有
大きなスクープを期待する読者には、大きなサポートを期待したい!