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-第2章③(Part1)-サッカーIQが高いプレーと低いプレーの違い : 『取捨選択』編


前回の記事。


ここまで「サッカーIQはなぜ必要なのか?」というテーマを、さまざまな角度から考察してみましたが、これが第2章最後のテーマです。

今回は以下の2つの観点からを整理してみたいと思います。


考察1:サッカーIQが『高いプレーと低いプレー』の違い。

➡︎『サッカーIQ(戦略的思考)が高いプレーと低いプレー』は具体的に何が違うのか?についての考察。

考察2:『良いサッカーIQと悪いサッカーIQ』の違い。

➡︎サッカーIQが高いプレーの中でも、『良いサッカーIQと悪い(ズレた)サッカーIQ』があるのではないか?という仮説を考察。



この記事では、考察1について整理してみたいと思います!

このテーマは具体例が多くなるので、流し読みがオススメです。笑

ではどうぞ!

【考察1】
サッカーIQが
『高いプレーと低いプレー』の違い


*『目的』と『資源』をどれだけ意識しているかが、サッカーIQに影響を与えている?

話を進めるにあたって、簡単に第2章①の振り返りを。


第2章①で、サッカーIQ(戦略的思考)が必要な理由は、『サッカーには”達成すべき目的”があり、その中で”資源が限られている”から』と整理しました。

  • 目的とは、達成したいこと。試合中には「相手チームに勝利すること」「ゴールを決める」「縦パスを通す」といった大小さまざまなものがある。

  • 資源とは、試合中に利用可能な要素。時間、スペース、技術、フィジカルなどが含まれます。これらの資源は常に限られており、試合の進行と共に変動する。



そして、上記の内容を踏まえると、以下の論理が成り立つと考えました。

1.サッカーには目的があり、
資源が常に足りていないから、
サッカーIQが必要。
⬇︎
2.サッカーIQを発揮するためには、
目的と資源を認識する必要がある。
⬇︎
3.試合中にサッカーIQの高いプレーが
できている時は
目的と資源を認識している時。
⬇︎
4.サッカーIQの高いプレーと低いプレーの違いは
目的と資源をどれだけ認識しているかで整理できる。

つまり、試合中に『目的と資源』を「認識している時 ・ 認識していない時」に起こる具体的なプレーや行動の違いを整理すれば、
それがそのまま
サッカーIQが高いプレーと低いプレーの違い』として置き換えられると考えました。

ここからは、この仮説を前提に話を進めてみます。


その中で、今回は以下の2つの違いをピックアップしました。


違い①『取捨選択』(この記事で整理)
▶︎「 今、何をして、何をしないか」を選べていること。

違い②『やるべきプレー・やりたいプレー』
▶︎ 目的から逆算したプレーと、手段が目的化しているプレー。



違い①『取捨選択』


ここから、『目的』と『資源』に分けて、取捨選択との関係性を整理していきたいと思います。

✔︎”目的”と『取捨選択』の関係性


[日常生活でイメージ作り]:スーパーへの買い出し

例えば、スーパーへの買い出しをするときに、「今日はカレーを作ろう!」という明確な目的があれば、スーパーに並ぶたくさんの食材の中から、カレーを作る(目的達成の)ために必要な食材と不必要な食材を取捨選択できるので、スムーズに買い物ができます。

一方で、「まずスーパーに行って、食材を見ながら作るものを決めよう!」というような目的が曖昧な状態だと、
何が必要な食材なのかが分からない
ので、スーパーを無駄に歩き回ったり、考える時間が増えたりと、無駄な時間と労力を使ってしまうようなイメージです。

サッカーもこれと同様です。

例えば、『ゴールを決める』という目的を認識していることで、
「今、ゴールを奪うために何が必要な情報で、何がいらない情報なのか?」などが整理しやすくなります。

一方で、目的を認識していないと、何が必要な情報なのかが曖昧になるので、「首をたくさん振って周りを見ている割に、その時に必要な情報が全く頭に入っていない。」みたいなことが起きたりします。


ということで、ここで事例を2つ見てみます。

[事例1] 360度見ている選手は何も見えていない選手。

現在、南葛SCの監督をされている風間八宏さんが以下のことを話していました。
これはまさに『(認知の)取捨選択』の話だと思います。

「うまい選手はいつ何をするかが明確。
だからサッカー選手は360度って言うけど、360度見てやる選手は何も見えない選手。
360度ある中で選ぶんだよ自分が。どこを今見るのか。
それができる選手がはやい選手で、うまい選手。」


[事例2] 180度しか見ていないメッシ選手

次に、上記の事例を完全に体現している、キングオブ取捨選択であるメッシ選手の事例を共有してみます。

ボールを受けるまでにメッシ選手が「どこを見て、どこを見ていないか」を意識してみると面白いです。
(画面中央付近にいて、背後に抜け出してシュートを打つのがメッシ選手です。)


メッシ選手のオーバーヘッドシュートがすごいのは置いといて、
この映像でのポイントは、ボールを受ける前に2回ほど首を振っているけど、その2回とも右(ゴール方向)しか見ていなかったことだと考えています。

つまり、メッシ選手は常に目的(この場合は『ゴールを決めること』)を意識しているからこそ、
『何を見て、何を見ないか』が取捨選択ができ、この状況では相手ゴールのない場所(自陣や自分の背中側など)をわざわざ見る必要がないことを理解しているんだと思います。

その他にも、なんとなくボールに関わろうと動き回るのではなく、
「誰がボールを持ったときに動くか」
「どのタイミング、どの場所から動くか」
といった取捨選択もしていることで、
「ここぞ!」というチャンスの瞬間まではずっとその場に立ち止まり、好機を伺っているのも分かりやすいです。
#サッカーIQの教材でしかない

ということで、目的を認識している時ほど、目的達成に必要なことと不必要なことを『取捨選択』ができるので、
効率的(※)で効果的なプレーが増え、目的達成の確率をグンっと高める事ができる。
という話でした。


(※)日本では「常に100%で頑張ること」が美徳とされる傾向があるので、『効率的』という言葉を「サボる、ラクをする」といったネガティブなニュアンスで解釈されることが多い印象を受けます。
ただ、この記事における『効率的』は、本当に大事な「ここぞ!」という局面で100%の力を発揮できるように、「50%の力で十分な時は、必要以上に頑張りすぎず50%で行い、大事な瞬間のために力をためておくこと」というニュアンスで扱っています。


✔︎”資源”と『取捨選択』の関係性

次に、資源と取捨選択の関係性を見ていきます。

ここでは『自分の資源』『味方や相手(周囲)の資源』『その他の資源』の3つに分けて簡単に整理してみました。

①『自分の資源』と取捨選択

➡︎これは「自分自身の強みや弱み」「自分の周辺にあるスペースの有無」「現在の体力や選択肢」といった、
自分がその時に持ち合わせている資源などを踏まえた上で、(目的を達成するために)「何をして、何をしないか」を見極めてプレーしているようなイメージです。

[認識している時]
▶︎『勝率が高い時と低い時』を取捨選択(適切な状況判断)ができる。など。

[認識していない時]
▶︎自分の得意なことで勝負できなかったり、状況判断が悪くなりボールロストが増えたり、プレーに波が生まれやすい。など。

具体例をいくつか挙げてみました!


*ポイント:自分の資源を認識している選手ほど、活躍に再現性がある。(プレーの波が少ない)。


②『味方や相手の資源』による取捨選択

➡︎これは味方や相手が持っている強みや弱みであったり、その瞬間の状況によって変化しているスペースや味方の選択肢などを踏まえて、自分のプレーを見極めているようなイメージです。


[認識している時]
▶︎自分や味方のプレーの質を高めたり、チーム全体が機能するプレーが増える。など。

[認識していない時]
▶︎味方を困らせたり、相手をラクさせるプレーが増えてしまう。など。

具体例をいくつか挙げてみました!


[事例3] 味方の資源を認識して、決断(取捨選択)している中村憲剛さん

——パスを出す選手のキャラクターによって、プレーの選択肢も変わってくる?
 「全然変わってきます。例えば、さっきの阿部ちゃんへのパスの場面でも、もし足は速いけど、技術はあんまりないタイプの選手だとしたら、足下にピタッと出すのではなく、もっとスペースに走らせるようなボールにしていたと思います。

阿部ちゃんの場合は、スピードを上げた状態でも確実にボールを止められるというのがわかっていたので、足下に出してあげるのが一番良いだろうと。そうやっていろいろな要素を頭に入れて決断をしています


③『その他の資源』による取捨選択

上記以外の事例も簡単に整理してみました。

以上のように、目的だけでなく資源も意識することで、取捨選択の質が高まり、より効果的なプレーに繋がります。


[補足]いい選手ほど無駄な戦いをしない?

『孫子の兵法』という、THE戦略の教科書の中で以下の言葉が出てきます。

『百戦百勝は善なるものに非ず。
戦わずして人の兵を屈するは、善の善なる者なり。』

これは、「百戦戦って百回勝ったとしても、それは最上の勝利ではない。戦わずして相手を屈服させることこそ、最上の勝利である。」という意味です。

理由としては、戦いには必ず資源(体力や時間など)が消費されたり、怪我のリスクもあるため、
仮に100回勝てたとしても、その間に自分がボロボロになり、101回目で相手に負けて目的が達成できなければ意味がない
からです。

そして、これはサッカーでも同じだと思います。

どれだけ目の前の相手にたくさん勝てたとしても、肝心の『ゴールを決める』『失点を防ぐ』といった肝心の場面で疲弊していて、力を発揮できず、目的が達成できなければ意味がないと思います。


僕自身、過去に対戦してきた選手の中で、「いい選手」「怖い選手」「うざい選手」と感じるような選手は、無駄な戦いをしていない印象があります。

例えば中盤の選手なら、ボールを奪いに寄せた時には簡単にパスを叩かれて、寄せなければ前を向かれて好き放題されるような感覚です。

前線の選手なら、相手がインターセプトを狙っているなら、わざわざ足元でボールを受けずに、背後に抜け出すような感じでしょうか?

そのため、その選手がボールを受けた時には『すでに勝負がついている』、『勝負そのものをさせてもらえない(目の前の相手と戦っていない)』といった感覚があります。
人によっては『体に触れる事すらできない』時もありました。

一方で、取捨選択ができない選手は、常に目の前の相手と戦っている印象を受けます。
いつもガチャガチャしているというか、五分五分のプレーが多く、うまくいけば華やかなプレーになりますが、失敗するとチームのピンチを招くことが多い印象を受けます。

『孫子の兵法』と同様に、いい選手ほど目的を達成することを第一に考え、
「いつ・どこで・誰と・何で勝負するか(あるいは、いつ・どこで・誰とは無理に戦う必要がないか」といったことを見極め、一番大事な局面に備えて無駄な戦いをしていない
ように思います。

実際にイニエスタ選手とやって、つき過ぎると周りが空くし、行かないとフリーでやられるし、どうすればいいんだ? とあらためて思いました。

結局、フロンターレは前半と後半でやり方を変えましたが…。
前半はタイトに行かなきゃと行ったらダイレクトで逃げるんです。(イニエスタは)ちゃんとフリーなポジションを取って、ボールが来たときにフリーで仕事ができるのならやる、(敵が)いればまた戻す。
その連続でずっと相手を見ながら相手を動かしながらやっていた。
まあ「うざったかった」ですね。使っていい表現かわかりませんが、イヤだなっていう。


ということで、違い①『取捨選択』の内容は以上です!

ここまでの内容をまとめると以下のようになります。

(※『目的』と『資源』を分けて整理しましたが、具体例を多く出すために便宜上2つに分けていました!
実際の試合中では、サッカーIQが高い選手ほど、有意識・無意識にかかわらず、両方を認識して意思決定をしていると思います。)



次回:『違い②”やるべきプレー・やりたいプレー”編』に続く。



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