【強化部連載】#1 そもそも強化部とは?
初回のテーマは、ずばりこれしかないかと思います。
前回「連載の背景」でもお伝えした通り、強化部の内情はブラックボックスになりがちであり、結果として世の中に公開情報が多く存在していません。まず連載を進める大前提として、「強化部」について端的にご説明します。
強化部の位置づけ
サッカークラブといういち企業体の中で、強化部とはどのような位置づけにあるのか。私が強化部業務を他者に紹介する際、必ず一言で伝えるようにしているのは、以下の定義です。
「強化部とは、プロサッカーチームのバックオフィスである」
自分自身が強化部を退任するにあたり、スカウト型転職サービスを利用して後任の採用を進めた際にも、数十名の応募者の方々と面談をしました。その中で皆さんに業務説明をする際に必ず冒頭でお伝えしていた定義です。
もういち階層ブレイクダウンすると、一般的に「バックオフィス」には、①人事、②財務、③法務、④総務、という4つの機能が備わっています。それらをプロサッカーチームの裏側で実行することこそが、強化部にとって最大で唯一の役割です。
強化部の業務概要
次に強化部とは具体的にどのような仕事を担うのか。強化部業務を前述の「バックオフィスの4機能」に沿って具体化すると理解が容易でしょう。
①人事:採用、育成、評価
■プロ選手・スタッフの採用活動(=俗にいう「スカウティング」)
■プロ選手・スタッフへの指導、スキルアップのためのコミュニケーション
■プロ選手・スタッフの評価(評価結果=報酬金額の決定を含む)
②財務:財務戦略、予算策定、予実管理
■プロチーム全体での財務戦略や投資配分の決定
■プロチーム全体の予算作成、及び、その進捗管理
③法務:契約交渉、契約の締結、登録手続き
■プロ選手・スタッフ(そのエージェントを含む)との契約条件交渉
■プロ選手・スタッフとの契約書の取り交わし
■その他、外部との契約書の取り交わし
■プロ選手・スタッフのJリーグ及び日本サッカー協会(JFA)への登録
④総務:施設・用具管理、ルール整備、各種事務手続き
■プロチームが利用する施設、用具、備品等の購入、管理
■プロチームにおける各種規則の制定、メンテナンス
■プロチームを運営するにあたり必要な各種事務手続き
以上、まずは強化部業務の触り部分をご紹介しました。私が「プロサッカーチームのバックオフィス」と定義する所以について、何となくイメージを持ってもらえたのではないかと推察します。端的に述べると、強化部の業務は、プロサッカーチームに本業である「グラウンド内」での競技活動に集中してもらうため、その裏側にあたる「グラウンド外」の管理業務を全て執り行うことが主となります。
さらなる理解促進のため、多くの方々が強化部の仕事として第一想起するであろう「プロ選手の補強」という業務で例示すると、概ね以下の通りとなります。
■自チームの戦術や戦力分析を踏まえて、自チームに加入して欲しい選手を探し、アプローチをする(①人事)
■当該選手に対して、全体の編成予算の中でどの程度の条件を提示できるのかを検討する(②財務)
■選手エージェントと契約内容の調整を行う。無事合意に至れば、選手との契約書を作成・締結し、Jリーグ及びJFAに選手登録する(③法務)
■当該選手が怪我をすることに備えて、傷害保険に加入をする(④総務)
今後本連載にて、それぞれの機能における業務詳細をご紹介しますが、強化部が執り行う全ての業務が、上記バックオフィスの4機能に大別できます。そして、強化部業務はそれら全てがシームレスに繋がっています。それこそが、「連載の背景」で冒頭に示した「全てのプロサッカークラブの強化部(スポーツ部門)には、ビジネスのプロフェッショナルが所属すべきである」というメッセージの背景です。
当然ながら個々のスキルセットによって異なりますが、総じたイメージを申し上げると、「サッカーのバックグラウンドを持つ人間だけの強化部」とはいわば「人事のバックグラウンドを持つ人間だけが、財務、法務、総務の仕事を兼任している経営管理部」と同義です。
この経営管理部には、会計士や税理士など財務の専門家、弁護士や弁理士など法務の専門家が在籍すべきとは言わないまでも、最低でも外部の専門家と一定の知識をもって折衝・調整ができる人材が必要なのは一目瞭然でしょう。そうはいっても、世の中には人事のバックグラウンドを持つひとりのスーパーマンが、財務や法務を含む全ての対応を無難にこなす中小企業もあるでしょう。一方で、「人事 vs 財務法務」の業務類似性と「サッカー選手のパフォーマンス分析やゲーム分析 vs 財務法務」の業務類似性は多分に異なります。したがって、サッカーのバックグラウンドを主として蓄積してきた人間がこれらを一定水準以上の知見をもって遂行することは、一般企業のケースとは異なり、決して簡単ではない相当な鍛錬と経験が必要となり、そのような人材が市場に限られる傾向にあります。結果として、強化部は一般的に「人事以外の機能」が組織として充足しづらい構造にあります。(補足すると、人事機能についても、「採用」業務は充足しやすいが、その他の評価を含む「制度設計」については機能不足に陥りがちです)
上記の背景から、強化部の「採用」を除くその他ビジネス領域においても、個々人の能力に頼れる機会が多くないのであれば、組織機能として充足を図るべきです。一般的な会社の管理部では、多様な専門性を持つ従業員がひとつの集合体としてフロントオフィスを支援しているように、プロサッカークラブの強化部においても、サッカーという競技的な専門性(≒人事(主に採用))は当然ながら、それとシームレスに繋がるビジネスの専門性(≒人事(採用以外)、財務、法務、総務)も機能として兼ね備え、組織全体で補完的な関係を築きながら業務を推進することを大いに推奨します。