ルックバック
気づいたら音が消えるほど、夢中になって教科書の隅っこに描いたあの頃を思い出す。左手で隠しながら描いていたのは、僕の憧れだった。
「お前は絶対漫画家になるよな」
よく言われる台詞。あの頃は何も気づかなかった。本気で何にでもなれると思っていた。
中学校に上がり、周りの目が冷ややかに変わったのは、感覚的に覚えている。オタクだなんだと、持て囃されていたはずの絵は、いつしか蔑まれる対象に変わっていた。
ただ絵を描くことが好きだった。褒めてくれるから。唯一、自分を肯定できるものだった。
少しずつ好きなアニメは見なくなり、話を合わせるように「みんな」の好きなアニメを見るようになった。
絵を描いたって何が残るわけじゃない。
意味があるとすれば…
と、諦めた僕のその先を追体験しているように感じた。藤本タツキ作品の「ルックバック」は読み切りとして、SNSを通じて話題になり、その反響は止まることを知らずに今回映画化に至った。
仕事終わりに新宿のバルト9で鑑賞。まだ温かいうちに、あらすじを簡単にまとめる。
学年新聞に4コマ漫画を連載して周りからちやほやされる藤野が、ある時不登校の京本の描く絵を見て愕然する。それをきっかけに絵に傾倒していく反面、周りとの距離が広がっていくこと、京本の画力に追いつけないことに葛藤し、諦めた時、京本に自分の作品を認められて、人生の方向が大きく変わっていく。
ネタバレを最小限にするならば、ざっくりこんな話だ。
まず、思ったような作品ではなかったという裏切りがまず一つ。元々は、漫画を介して深まる2人の関係を描いていくのかと思った。しかし、それとは裏腹に、別々の道を歩み、観る人のほとんどがいい結末だとは思わないだろう。
僕は、漫画を描くことに対する空虚さと、でもそこにはやっぱり意味はあるんじゃないか、という葛藤を描いた作品のように感じた。
どれだけ作品を作っても、何も自分が変わっていかない感覚からくる空虚感と、それでも描き続ける意味は、やはり藤野にとっての京本なのだろう。
背中を見ても何も無いけれどペンを握るその姿がとても印象的な作品だった。