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シェアド・リーダーシップ開発の実際—  「顧客に聞く」(1)

インタビュー記事テキストの公開

『シェアド・リーダーシップ入門』の発行元である国際文献社より、発行記念のインタビューを行いました。以下で紹介する記事PDFは、国際文献社のWebサイトで全文公開されています。国際文献社の公開ページはこちら
国際文献社の許可を得て、記事テキストを紹介いたします。今回はVol.2の前半部分です。

シェアド・リーダーシップ開発に取り組む企業である株式会社コンピュータシステム研究所(以下CST社)に、お邪魔しお話を伺いました。CST社は、代表取締役社長の長尾良幸氏(以下長尾社長)が1986年に設立、創業37年を迎える企業です。建設業および建築業向けの業務ソフトウェア開発・販売・サポートを主要事業としています。本社は仙台と東京で、全国各地に26の事業所を展開。従業員数は543名(2023年8月取材時)。

 CST社は、2022年8月より、リーダー育成と事業開発を目的とする選抜型のリーダー教育を開始しました。最上氏は、この教育の総合プロデューサーをつとめています。正式名称を「後継者育成経営塾」とするこの教育は、2025年の同社設立40周年を視野に入れた教育事業で、長尾社長の後継者育成も兼ねた取り組みとして行われています。以下では「経営塾」と記載します。

 このインタビューは前半と後半に分かれています。前半(今回の記事)では長尾社長および塾生であり塾長を務める松井崇之常務取締役に、後半(次回の記事)では「経営塾」の立ち上げに携わり塾の世話役を務める秋山幹也氏に話をうかがいます。


教育の背景

CST社 代表取締役社長 長尾良幸氏


――シェアド・リーダーシップ開発の教育を導入した経緯は?

長尾良幸社長(以下長尾氏) きっかけは、当社の次の経営者と経営層を育成したいと考えたことです。ただ、経営者にいきなり育てというのは無茶でしょう。そこで、経営者への成長を促す教育が必要だということです。

 でも、講演会やセミナーに行くなどの一回限りの教育では経営者育成という大きなテーマにはあまり意味あるとは思えませんでした。そうではなく、参加者が継続的に集まり、熱く討議することによってダイナミックに学びあう座学的な場としての「塾」がいいと思ったのです。そこから、リーダーの資質のある者がリーダーとして、さらにリーダー群を束ねるトップリーダーが自然に立ち上がってくることを期待しました。

 リーダー候補が、事業開発や経営についての多方面のテーマを討議・議論するという教育形態を採用したのはこのためです。リーダー候補を選び、彼らが当社の組織を再点検し、自身で新事業開発の可能性を開拓する機会を持たせたいと私は思いました。それを教育という形で提供したのです。


――このような教育が必要とされた背景について教えてください

長尾氏 今の社会は先行きが不透明です。例えば少子高齢社会という問題がある。当社のお客様である建設業界にとってこのことは、住宅などの着工件数の減少という現象につながっています。目を転じれば、事業効率を飛躍的に向上させるAI化も、今後、続々と不要になる業種や職種を生んで行くでしょう。激しく変化する社会に応じて、私たちも変化し続けなければなりません。今やひとつの製品のライフサイクルは長くはありません。私たちは顧客ニーズに気付き、新しいライフサイクルを持つ製品を次々に開発して顧客に提供し続けなければならない。これはやさしいことではありません。それができない企業は消滅してしまうのです。


――だから、リーダー育成と事業開発を同時に行う教育が必要なわけですね。

長尾氏 そうです。私は教育を与えるということはとても贅沢なことだと考えています。教育で大事なことは自身の気付きだと思います。教育とはすぐに目に見える効果を発揮するものではないかもしれません。教育が役に立ったと思えないこともあるかもしれません。しかし、教育から受けた刺激が形のない気付きを生むこともあるし、その気づきが時間を経て明確に役に立ったと思えることもありますね。

 それが教育の真髄です。これは、私が経験から学んだことです。現状ではだめだと気付く、どう対処しようかと考える、ひたすら考え続ける。なんとしても結果を出す。こうやって、人とは成長するのではないでしょうか。こういう機会を与え続ける。すぐに結果に直結しないことに取り組めていること、つまり教育は贅沢ですが、人が成長する姿を見る、これが私の経営者としての最大の喜びなのです。


――塾生の皆さんの成長は、どんなところから感じられますか?

長尾氏 私は塾の運営には一切かかわっていません。ほとんど口出しもしていません。数回、オブザーバーとして顔を出すくらいです。あとは事務局(後ほどインタビューする秋山氏)から報告を受けたり、受講風景の写真を見たりしています。皆の顔を見ていると、普段見ないような笑顔が見える。“この教育はうまくいっているな”という感じがわかります。参加者の顔を見ればわかるのです。それが経営者ではないでしょうか。

 それは目に見えない変化です。目に見える変化についてお話するならば、当社では営業、開発、管理といった部門があり、それぞれの担当職責に専念しがちな傾向があります。ヨコが見えていないというのでしょうか。しかし、各部門メンバーが集まる「経営塾」が功を奏してか、それぞれの部門がお互いの仕事を理解してきた。ヨコの関係が強くなってきたように思います。


――それが「経営塾」の成果ですね?

長尾氏 なによりの成果だと思います。タテが強いだけでは組織は強くならないのです。タテとヨコの強固なつながりを持つことが変化に強い会社となる要諦のひとつだと思います。


CST社 松井崇之 常務取締役/塾長

――松井塾長の目線から、いまどのような変化を感じられますか?

松井塾長 そうですね、(長尾社長も言う)ヨコのコミュニケーションが強くなったことは実感します。当初は、事業部というひとつの部門の中にある営業、サポート、開発の間にさえ壁や反目があって、営業やサポートが作って欲しい
という商品案を、開発側がそんなものはできない
と門前払いにしたことが何度もありました。壁を崩すにはかなり時間がかかりましたよ。意見交換や協議を何度も何度も繰り返しその末にやっと納得してもらう。こんな感じでしたが、今ではお互いが協議できる枠組みがあり、「よし、やってみよう」、「こうすればできるよね」という対話の方向に向かうようになりました。


――「経営塾」が壁を崩すために貢献したということでしょうか?

松井塾長 そうです。これまでをふりかえると、ある商品企画で、当社にはない技術が必要で製品の開発ができない場合、できないから当然、営業、開発、サポートはお互いに好き勝手に批判しあい、文句だけを言いあうようなことがありました。


――『入門』に出てくるZ支社の状況と似てますね。

松井塾長 同じような状況を繰り返していました。最近は、そこをわいわいやりながらみんなで勉強しよう、捉え方をちょっと変えて、どうすれば作れるのか、開発、販売、サポートが一緒になって協議してみよう、製品を実現することに向き合ってみようという、もしかしたら、私自身の意識がすごく変わったような気がしています。「経営塾」での学びが支えになっています。

 結果的には、それに関わった自分たちやその周り、そして顧客、みんな喜ぶ問題解決の道筋を立てること、これって楽しくない?という発見につながると思います。私自身のことを言わせてもらえば、本当は勉強は苦手なんですけど、塾生として参加させていただいて、新しい発見や、変化があり、すごくこの塾を楽しんでいます。


――最後に、長尾社長は「経営塾」が今後どうなっていくとお考えですか?

長尾氏 リーダーとは、トップひとりではないのです。まずリーダー候補生が経営に参加する、そしてその候補生の周辺にいる人材が経営に参加してくる、そしてさらにその周りへと。こういった波及が次々に起こってくることが重要で、その中でわきあいあいとお互いの意見を交換していくようになれば、新しい時代にふさわしい視点やアイディアも出るようになるでしょう。

 そして、この『入門』にある「慚愧(ザンキ)の共鳴」と「三幅対(サンプクツイ)の変容」の起こせるリーダーが育つと確信しています。共鳴、気付き、変容のダイナミックな循環ですね。私は、そのための機会を与え続けるということです。現に、営業、開発、管理部門はかみ合いつつあります。この活動を継続していれば、このなかからリーダーのさらにリーダーも出てくるだろうと考えています。


左から筆者 最上雄太、長尾社長、松井塾長

――長尾社長、松井塾長ありがとうございました。シェアド・リーダーシップ開発は組織全体に関わることであり、経営者の意識を変えていくことであることが良くわかりました。次回「顧客に聞く」(2)では、「経営塾」の世話役である秋山座長に話を伺います。

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