論文は「謎」の設定が鍵
前回のnoteで、論文テーマを設定することの難しさについて述べました。今回のnoteでは、論文のテーマを設定するコツに触れます。結論から先に述べれば、論文テーマを設定するコツは「謎」の設定にあります。ほとんどの社会人大学院生が苦戦するのは「謎」の設定です。日常的に問題解決に向き合う人々には、「問題解決」を優先する独特の癖(仕事柄からくる習性)があり、それが論文に不可欠な「謎」の設定を困難にさせています。
なぜ「謎」の設定が不可欠なのか
なぜ「謎」の設定が不可欠なのでしょうか。今回もChat-GPTに聞くことからスタートしてみます。「論文は謎を解明するプロセスであると言えますが、なぜそう言えるのか例を挙げて説明してください」と、前提強めの質問をしてみました。こういうイヤラシイ質問に真面目に答えてくれるChat-GPTがとても好きです。以下Chat-GPTの回答を見てみましょう。
いかがでしょう。なぜ「謎」が不可欠なのかが概ね理解できると思います。書いてあることは当たり前のことです。しかし、実際のところ、「謎」の設定は想像以上に難しいのです。
どういうことでしょう。ほとんどの社会人大学院生は、いまの仕事で解決したい課題感や危機感を抱いて大学院に入学します。なかには職場から派遣されてくる人も少なくありません。共通して、組織が直面する問題について極的な解決策や新しい視点を持ち帰ることが期待されており、解決に向けて強い使命感をもっています。そういった、課題感、危機感、使命感から、いま目の前にある問題についてすでに何らかの解決策・アイデア・提言・方法を持っています。普段の仕事に直結するわけですから、以下のような仮説(だろう)をすでに持っているのです。
この問題の原因は・・(だろう)
・・に問題がある(だろう)
・・をやれば解決できる(だろう)
・・が有効(だろう)
なお、このような仮説は、先行研究調査から導出されるリサーチ・ギャップとして示される「研究仮説」とは異なり、その人の主観的な仮説を指します。「研究仮説」については、次回以降にnoteに書きたいと思います。
仮説の弊害
このような極めて主観的な仮説は、実務的な問題解決を効率的・効果的に行うために必要です。しかし、こういった仮説が確信的で強すぎる場合、研究の初期で明確化すべき「謎」を見えなくさせます。見えなくなるとは、「謎」の設定よりも解決策を示すことに意識が向けられるという意味です。では、どのように「謎」が見えなくなるのか、Chat-GPTが示した4項目に沿って説明します。
1 知識の欠如を埋めるための情報提供:
主観的な仮説は、研究の入り口に誘うためには必要です。仮説は、その人にとっての「答え」です。仮説への思いが強すぎる場合、その人の研究は「謎」の解明ではなく自分が主張したい(自分では既に解決済みの)「答え」が妥当であり、正しいことを説得することに意識が向けられていきます。つまり、わからないこと(の解明)ではなく、自分なりに知っていること(の説得)に力点が置かれてしまいます。こうして、「謎」がおざなりとなり、見えなくなります。
2 問題の定式化とアプローチの提案:
「答え」が強く前に出てきますので、問題の定式化は疎かになり、もっぱら所属する組織固有の問題が設定されます。学術論文における問題は、先行研究調査から導出され、定式化されます。先行研究で何がどこまで行われており、どこまで解明されておりどこからが未解明なのかというリサーチ・ギャップを明らかにしない限り、問題の定式化はできません。そうして導出された「謎」=未解明な問題は、広く読者が共有できうる普遍的な問題、解明することに学術的意義が認められる問題となります。
しかし、主観的な仮説が強すぎる場合、主張と噛み合わない先行研究調査は薄くなることが多くなるようです。先行研究について網羅性に欠けた形で、当初から秘めた自分の仮説が「謎」をどこかに押しやり、「我が社の問題は・・である(他でもそうでしょ?)」「我が社には、・・が必要(他でもそうでしょ?)」という実務的な課題の提案がリサーチ・クエスチョンとなってしまうのです。
3 既存の知識との関連付け
そして、自分の仮説=持論の主張に力点が置かれますので、同じような主張をしている論文を引用しやや強引にむすびつけ、「ほら正しいでしょ」と力説する論調となります。既存の知識との関連付けが、強い仮説にひっぱられるのです。
4 ピアレビューと科学的な検証
いま述べた問題は、論文を指導する教員の指導により是正されるべきです。しかし、実学を重視する社会人大学院のゼミでは、誰かが主張する「組織固有の問題」=組織あるあるが、ほかの組織あるあるを引き出し、それぞれが考える解決策が示されて、議論が盛り上がるものの、「謎」は置き去りとなることもよくあると聞きます。念の為、全ての社会人大学院がそうでないことを強調しておきます。極端な例を挙げてしまいましたが、このようなゼミが実在するならば、ピアレビューと科学的な検証は機能しないことは自明です。
結果として、「謎」が見えない「実践レポート」が完成します。これは、「謎」を提示し「謎」を解明する適切な方法論を用いて「謎」の解明を試み「謎」の解明から得た知見から考察を与える研究論文とは明らかに異なります。
前回のnoteでもお話しした通り、この「実践レポート」を高い授業料を払って、膨大な時間を投資して、わざわざ社会人大学院で書く必要はありません。
じゃあ、研究論文にするため、初期の仮説を完全に無視することなく、適切に「謎」を設定するにはどうすれば良いか? これを次回noteで書きたいと思います。お楽しみに。
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このnoteの著者である最上 雄太は、書籍『シェアド・リーダーシップ入門』を国際文献社より出版します。この本を広く知っていただきたく、2023年6月1日(木)より クラウドファンディングサイト「CAMPFIRE」で支援者の募集を開始しました。このnote投稿時点で目標金額の119%に到達しました。
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