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企業でのAI活用が進んだ先にあるもの
企業におけるAI活用の動機として、労働人口減を背景とした知的労働者の負担軽減・効率化が挙げられる。
AIを活用し、今より少ない知的労働者が会社を支えていくことが目指す姿となるが、その結果としてどのような未来になるだろうか。
AIの現状
24年3月時点、すなわち今からちょうど一年位前の記事によると、今の汎用AIのIQは100を上回ったところにある。
IQ100というと、そこまで高くないようにも見える。しかし、「半分の人より頭が良い」と言える。
実際、個人的な体験からも、「他人の生成した主張のよく分からない文章をChat-GPTに纏めて貰ったら、数行程度の簡潔な文章で趣旨をまとめる事ができた」という経験がある。これは、発信者がやるべき「作業=要点を纏めて分かりやすい文章を作る」または、受け手が無意識に行なっている「趣旨の分かりづらい文章から、要点を纏める」作業を、Chat-GPTが代替・補完してくれていることになる。すなわち、何らか自分に不足している要素を補うために、AIが部分的にも機能していると言える。
これからも、研究や技術開発が進むことで、汎用AIや特化型AIの性能は高まっていくだろう。
AIが普及すると、リスクある人材確保は不要になる
AIにより、代替、補完が進むと、一人当たりの生産性が高まる。組織においては、その組織に占める人員をより少なく運営できる。
中期的には、採用を減らせるというよりは、採用数が確保できない中でも業務を継続できる、というモチベーションが高いだろう。採用難の中で、優秀な人材を確保することは容易ではない。志願者の将来性の見極めを数回の面接で実現するのは容易ではない中で、リスクを取るくらいならAIを活用した方が経済的である。
人はどのように才能を発露するか
少し話が逸れるが、教育に目を向けると、人材育成は容易ではない。例えば、小学校などの義務教育においても、同じ教育をしているにもかかわらず、児童のレベルは格段に変わってくる。親が強引に受験勉強をさせ、それでも中学受験に失敗する児童もいれば、対して勉強もせずにちょっとした受験対策のコツを掴んだだけで中学受験を突破できる児童もいる。
これは、個人的な体験に基づくものだが、社会人も同じような状況が言える。
有名な大学を出ていても、ビジネススクールやビジネス書籍で様々なフレームワークを学んでいても、前提条件が曖昧な自由度の高い案件に対して具体的なissueが立てられず、いつまで経ってもアウトプットや進捗が出せず悩んでしまう人がいる。
こういったビジネスにおける成果は、その人の特性及び場数によって発露するかが決まるように見える。何らか、業務を通じて見込みのある人が見つかり、その人に対して場数を踏ませることで当人は成長する。
すなわち、明確かつ確度の高い育成カリキュラムを作ることは現実的ではなく、あくまで「候補となる絶対数の多さ」と、「ある程度の失敗が許容できる環境」が重要になる。この辺りは、従業員数の豊富さの観点で、中小企業よりも大企業の方が有利だろう。
人材育成は、今よりも難しくなる
前述の「リスクある人材確保」の観点から、比較的、従業員数の豊富さで優位な大企業においても、労働力不足やAI活用で人材確保が鈍化していくとする。
このような状態が続くとどうなるだろうか。「人が才能を発露する」条件に従う場合、採用の絶対数が減っていくと、そこから次の世代を支えるリーダーが生まれづらくなる。
生成AIを使いこなせる人が、知的労働者として生き残るための大前提となる。加えて、発想を論理的に再構成するスキル、プレゼンテーションスキル、いくつかある案の中から現実的なラインに着地するための方向性を作るスキルなど、AIが代替しづらい、人間的な揺らぎが必要となるスキルが求められる。
その中から、更に、複数のスキルを組み合わせた上で、他のメンバーがついて来れるような指針を発し、その指針を具体化して管理できる人がリーダーとして求められる。
これらの能力を持つ人を、人為的に教育することは殆ど不可能に近いだろう。生き残った知的労働者は、すでにある程度のレベルに達する人であることを踏まえると、現状よりも少ない絶対数でリーダーとなり得る人材を見つけやすいかもしれない。とはいえ、完全無欠のリーダーが生まれるというよりは、何らかの能力に秀でている中で、周囲の優秀な知的労働者が支援することで組織が成り立って行くような気がする。
もしくは、将来は明確なリーダーが不在の中で、全体としてはレベルの上がった今よりも少数の知的労働者が、お互いに補完しながら案件ごとのゴールに向かって推進力を発揮する形態になるかもしれない。
Googleでは、少数精鋭のチームによりビジネスが推進されているという話を聞いた事がある。実際にそうなのかは分からないが、確かに、下記のようなチームビルディングを実現するにあたって、大規模なチームは向かないだろう。
AI時代の知的労働者と、そのチームのあり方
以上を踏まえると、次のような傾向が高まるのではないか。
チームは少数になる。労働力の確保が容易でなくなるため。
労働力の補完はAIが行う。AIのIQはせいぜい100ちょっとかもしれないが、それをどう使うか、マネジメント能力が従業員のスキルセットの一つとなる。
従業員は、より高い業務遂行能力や、突出した特性を求められる。それぞれの特性を持つ人同士が補完し合いながら、プロジェクトを進める。
しかし、これでも、「このチームにどうやって人材を投入するか」は答えがない。今以上に、大学、高専のような教育機関が、候補となる人材を集める役割を担うしかなさそうだ。