「立派です!」歯医者の弁です。立派な虫歯?
夫は知り合った頃からやたら歯の手入れを気にする人だと思った。どこにいようと食後は磨かないと気がすまない人だ。だが、それにしては、歯医者さんに行く回数が多い。年に、いや、毎月のように行っている。そこまでしているのに気が付けば新しい虫歯が見つかったりする。
数年前、とうとう差し歯になってしまった歯もあった。抜く羽目になった歯もあった。
娘が電動歯ブラシを使うようになってどれくらいの月日がたったであろうか。磨いた後、いつも「葉がつるつるで気持ちがいい。歯医者さんに行くとよく磨けていると褒められた」などと気をよくして帰ってくる。
だが、娘は夫の歯を譲り受けたようで幼い時から虫歯の治療が続いている。それゆえだろうか、歯に対する考え方も夫と同じような気がする。よく歯ブラシ片手に座り込んでいる。
フムフム、歯というもの遺伝で虫歯になりにくい歯と言うものもあるんだ。その点、私は彼らに比べて歯磨きの回数は少ないようだが、虫歯はないぞ。
この夏、百四歳で亡くなった母もそんな感じだった。これは遺伝だ、などと私は気をよくした。
歯医者さんに検診に行くと「りっぱです」と言われた。
「立派な虫歯ができていますか」
と思わず聞き返してしまった。
「虫歯はなくあるべき全部の歯がそろっていることです」
歯医者さんの弁だった。
そんな歯の持ち主の私だった。それが、昨年のちょうど今頃のことだった。左上の奥から二番目の歯が痛くなってとうとう緊急、救急で歯医者さんに行った。
私にとっては天地がひっくり返るような結果が待っていた。
「歯周病が進行しています」との弁。
歯医者さんから遠ざかって一年半、そんなことになっているとは。歯には自信があったのに虫歯ではないことで歯を抜くぞ・・・と言われることになるとは。
その痛みがある歯は根っこが無くなってきているので抜いたほうがいい、すぐにでもと脅されてしまった。
「それだけは・・・」とこれからその時が来るまでと処置だけに留めてもらった。
虫歯菌と歯周病菌は全く別個のものだとかで、どれだけブラッシングが大事かこんこんと説明された。それ以来、二、三か月ごとの検診が続いている。
抜かなければならないと言われていた歯はあれから一年経ったが、今も私の口の中でちゃんと仕事をしている。だが、今日にいたるまでとうとう抜かれてしまった歯がある。
それは、ある日突然やって来た。春、毎日おいしくてバリバリサラダを食べていた。サラダは歯に優しくない食べ物か?虫歯かと思って医師のところに出向いたらクラックが入っている、これは治療の施しようがない、と即抜く羽目になってしまった。
医師には言われていた。
「若い人たちと同じように全速力では走れないでしょう?年のことを考えないと。歯だって同じです。固い噛みにくいものを食べてはいけません」
しかし、生の玉ねぎやサラダ菜やトマトが歯に悪かった?
そんなに歯をいたわらなければならない年になってしまったのか・・・今さらに年を悟った私だった。
これから一生必要としている歯たち、大事にしていかねばと念入りに歯磨きを心掛けるようになった。
今年の私の誕生日には娘から電動歯ブラシがプレゼントされた。さすが、歯磨きのことではすぐに気が付く娘からのプレゼントであった。