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ここには何かが足りない

この1年弱取り組んでいたとあるプロジェクトが無事に形になった。私が制作の監修をした、Taiga Takahashi(現在の正式なブランド名は「T.T」だが、まだこの名前がしっかり浸透していないような気がするので、ここでは以前の名前を用いることにする)のお香が、草月会館で行われた「T.T I-A 02 遺物の声を聴く 応用考古学の庭」というイベントにて無事にローンチされた。ちなみに、イベント自体は12月29日まで行われているので、ご興味がある方はぜひ足を伸ばしていただきたい。入場は無料、お香も購入できる。


Taiga Takahashiは好きなブランドのひとつで、以前からデニムのセットアップを愛用していたし、çanomaの取扱店のContext Tokyoの方に無理をいってバイヤー向けの展示会にもお邪魔させてもらっていた。

だから今年のはじめに、Taiga Takahashiの中の方から、香り制作の依頼を直接受けた時には大変驚いた。しかも、その方は私がすでにブランドのアイテムを着用していたことも、私が展示会にこっそり伺っていたことも知らなかったのだ。

このプロジェクトのために、今年の前半は頻繁に日本とフランスを行き来し、調香師Jean-Michel Duriezと何度も試作を重ねた。ベースとなる香料が完成したのは夏前くらいのことだったはず。その後、çanomaのお香製造も手掛ける淡路島の薫寿堂に製品化を依頼し、複数の試作を経て、最終的な処方が決まったのが秋口くらいだったと記憶している。

イベントにはなんとか間に合わせることができたが、香料の製造時にトラブルがあったり、薫寿堂には毎度ながら無理なスケジュールでの製作をお願いしてしまったり、とあれやこれやのてんやわんやがその裏ではあった。

そんなわけで、草月会館で製品化されたものを香ったときは感無量だった。とてもいいお香になったと思う。私が携わっていることで、çanomaの“面影”は若干あるかもしれないが、çanoma単体では作ることのできなかった香りとなっていると思う。


インスピレーションソースや香りの構成を、ブランド側がどこまで開示するのかについて私はきちんと把握できていないので、ここではその辺りについては記載しない。その代わりに、私がどのようにこのプロジェクトに取り組んだかについて、簡単に書きたいと思う。


Taiga Takahashiというブランドは、今日若干特殊な体制となっている。2年半ほど前にファウンダーでありデザイナーの高橋大雅が27歳の若さで急逝したことで、現在はTaiga Takahashiチームが、「彼ならこの時どうするだろう」という問いを常に立てながら、“中心人物”を欠いた状態でブランドを運営している。

その体制でのブランド運営を可能としているのは、彼の確立されていた哲学と、それに基づいて残された言葉や作品たちだ。それらによってきちんと故人の意思が引き継がれていることに、チームメンバーと話しながら驚かされたのを鮮明に覚えている。

ミーティングで随所に現れる彼のその哲学を感じる中で明確にわかったことは、今のTaiga Takahashiというブランド“らしさ”をただ香りで表現するだけではダメだ、ということだった。そうではなく、香りでブランドに新しい何かを吹き込むことこそが、私に求められていることだとすぐに悟ったのだ。

そう考えながら祇園のお店を訪れると、そこには何かが欠けているように感じられた。それが何かはよくわからなかったが、とりあえず私はメモ帳に、以下のように書いた。

ここには何かが足りない。

これがこのお香プロジェクトの、私の最初の“とっかかり”だった。ここから何が足りないのかを考え、最終的に香りに落とし込んでいった。


他のクライアントがいる中でのプロジェクトというのは、当然難しさを孕むが、だからこその面白さがある。今回のTaiga Takahashiの案件を、私は大いに楽しむことができた。またTaiga Takahashiの違う香りに取り組みたいし、他のブランドでも同じようなことに挑戦したいと思う。

他ブランドのための香り制作では、私だけでは浮かばなかったアイディアやインスピレーションソースと出会うことができる。それが私の今後のクリエーションにポジティブな影響を与えることはいうまでもないだろう。そうやって私も、クリエーターとして成長できるのだ。


ということで、来年はもっと他ブランドからの香り制作の依頼を請け負いたいと思う。この記事を読んでいる、香りを作りたいと思っているブランドの方、相談だけでも乗るので、気軽に連絡をしていただければ嬉しい。私に依頼するメリットやデメリット、できることそしてできないこと等を、ざっくばらんに話します。


最後に。Taiga Takahashiのお香は、今後祇園にあるブランドのフラッグシップストアで販売する予定だそうだ。近くに行かれる方は、ぜひ試してみてほしい。

私抜きでは作れなかったけど、私だけでは作れなかった、素敵なお香となっているから。


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