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ファッショニスタはなぜニッチな眼鏡を選ばないか

ファッションウィークが終了して1週間ほど経ったが、そういえば記事にしようと思ってまだ書いていなかったテーマについて思い出した。


パリファッションウィークというのはなかなか特別なイベントだ。街中の至るところにショールームができ、あちこちでショーが開催され、世界中のセレブが集まる。

ファッションウィークのタイミングでしかパリに来ないバイヤーやエディターは多いと思うが、彼ら彼女らが見ているパリと普段のパリには大きなギャップがある。着飾った人々で溢れかえっているのはファッションウィークの刹那だけであり、それが終わるとパッとしないパリジャン及びパリジェンヌだけの薄暗い街に戻る(というのは少々言い過ぎかもしれないが、いずれにしてもファッションウィークの華やかさというのは特別なのだ)。

1月下旬に行われたパリファッションウィーク期間中に、日本から来たバイヤーのアテンドをしていて、いつも以上に近い距離でファッションウィークのなんたるかを見ることができたのはとてもいい経験になった。ファッションインダストリーという魑魅魍魎を垣間見ることができたのだ。


世界中から集まってくるバイヤーはやはりカッコよかった。日本人とは体型等が違うから、アイテム選びやコーディネートも当然変わってくる。日本では考えられないようなスタイリングの人々が街を練り歩く様は、なかなかの壮観だった。


服、靴、バッグ、アクセサリーは各人が各人の好みのものを選んでいたのでバラエティに富んでいた。当然だろう。皆世界各地から来ていてその上ファッションアイテムに関する知識が豊富なのだ。

ただ、その中でも唯一、バラエティに乏しいアイテムがあった。


眼鏡だ。


世の中にはこれだけたくさんの眼鏡ブランドがあり、眼鏡屋も街中に星の数ほどあるのに、ファッションウィーク中にバイヤーやインフルエンサーがかけていた眼鏡ブランドは、私が見た限り一番多かったのはRigardsで、その次がKuboraumだ。それ以外となるとテンプルにブランドロゴが大きく入ったハイブランドのサングラスになってしまう。Jacques Marie Mageをかけている人もいたが、その数は少なかった。


どうしてニッチな眼鏡ブランドはファッショニスタからはあまり注目されていないのだろうか。

大きな理由は2つあるような気がする。


1つは、まだ眼鏡がファッションアイテムと認知されて日が浅い、ということ。あくまでも視力矯正器具であった眼鏡がスタイリングの1アイテムになったのはまだ最近のことである。日本に限っていえばここ10年くらいではなかろうか。少し前は眼鏡をかけていればすぐあだ名まで「メガネ」になったものだ。

もう1つは、“コスパが悪い”ということ。ただでさえお金がかかり新しいブランドが次から次へと生まれてくるアパレル業界において、眼鏡にまでお金と気を配る余裕はないのだろう。眼鏡は手っ取り早くアパレルショップで取り扱いのある、かつ“間違い”のない、先述の2ブランドで事足りてしまうのだ。


これだけ世の中に面白い眼鏡があるのに、なんだかもったいない、と思いながらも、こういう現象が起こってしまうのもなんとなく納得できる。いずれにしても、専門性の高いプロダクトというのは、往々にして大きな意味合いでのトレンドとはまた違う方向に走ってしまい、いわゆる“たこつぼ化”を起こしてしまう。そんな中眼鏡に関しては、ディストリビューションを眼鏡屋ではなくアパレルショップにした先の2ブランドがファッショニスタからの信頼を獲得した、というのは、このように考えてみるとよく理解できるだろう。


この気づきから、私たちは何を学ぶことができるだろうか。

フレグランスに目を移すと、結局のところ眼鏡と同様の現象が起きていることが見てとれる。“おしゃれな人”はマニアックな香水ではなく、ある程度名の知れた、ただまだマスっぽくなりすぎていないブランドのものを使っている傾向にあると思料する。これだけニッチなフレグランスブランドが増えても、それがうまくファッションの中に溶け込めていないという点においては、眼鏡と同じ状況に陥っているといえるだろう(ただし、そのクオリティに関しては眼鏡のそれとは比べられないように思う。よって、“たこつぼ化”の原因を単純に比較することはできない点には注意が必要だ)。

眼鏡においてはRigardsとKuboraumの2ブランドがうまくその“たこつぼ”から出ることができた。その理由のひとつは、取扱店の選定にあるだろうことは先に述べた。

香水においても、あるいは単純にフレグランス売場やフレグランスの催事ばかりに名を連ねることは、あるいは“たこつぼ化”という点において危険なのかもしれない。文化として広がっていくためには、きっと周辺の複数の業界と関わりを持つことが重要なのだ。つまり、眼鏡がファッションの一部となったように、香水もファッションの構成要素となってはじめて、文化となっていくことだろう。


その意味では、çanomaはセレクトショップを中心に取り扱ってもらっているので、あるいはいい戦略だったのかもしれない。もちろん、香水を買いに来る場所でない分、売上という意味では難しさもあるが、中長期的なブランドの立ち位置を考えるときっと悪くはなかったのだろう。


いずれにしても、専門性の高い分野は先鋭化しやすいものだ。だからこそ、それに関わる人は、専門性を磨くことはもちろん、もっと広い視点で周辺業界まで見渡しながら前に進むことが重要だと私は考える。


…という理由により、私はこれからも、服や眼鏡を買っていくのである。

え?買いすぎ…?いやいや、これもいいクリエーションのためだから…


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