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多少痛くても

上海からパリへと向かう飛行機の中でこの文章を書き始めた。パリまではあと5時間弱。さて、到着前に書き上げられるかどうか。


朝4時過ぎに家を出て、羽田空港に到着したのは5時ごろだった。前の記事でも書いたが、チェックインカウンターを探すのに苦労した。羽田空港第3ターミナルで「チェックインカウンターS」と表示されたら、出発ロビーの3階ではなく1階に移動するべし。

昨今の情勢から迂回経路をとる日本の航空会社と違い、中国の航空会社はロシア上空をパリまでぶった斬ってくれる。それゆえ直行便だと15時間程度だが、今回私が予約した中国東方航空のフライトは上海でのトランジットも含めて東京パリ間を17時間半で行く。かかる時間はそう大きく変わらず、運賃は直行便の半額程度ということを鑑みると、東京からパリへ飛ぶという目的を果たすことにおいてはお得感がある。

羽田空港では一番最初にチェックインを済ませることができた。早々に手荷物検査と出国審査を終え、羽田空港での恒例となっている「六厘舎」のつけ麺を注文した。朝6時過ぎのことだった。

つけ麺を食べ終え、搭乗までの1時間半ちょっとでnoteの記事をひとつ書き上げることができた。これでパリ到着すぐに記事を投稿できる。一安心。

東京から上海までのフライトは最初から最後まで爆睡した。離陸にも着陸にも気づかなかった。前夜は3時間弱しか寝ていなかったので、この3時間ほどのフライトで合計するとまとまった睡眠となった。

あらかた定刻通りに上海に到着したようだ。パリへのフライトの搭乗開始時刻までは1時間程度、搭乗締切までは1時間半弱ある。上海浦東(プドン)空港でのトランジットははじめてではないので、これなら大丈夫、とたかを括っていた。

ところが、駐機場にたどり着くまで、着陸から30分ほどもかかってしまった。スムーズに行けば問題ないが、どこかで長い列に巻き込まれると乗り遅れる可能性のある時間だ。

しかも飛行機の出口に向かう際、前方にいた変なおばさんが周りに悪態をつきながらノロノロと歩いていた。急いでいる時に、一番イライラするあれだ。

ようやく飛行機を降りて、そのノロノロおばさんを追い越す時、私の足が彼女が引きずるスーツケースに軽くぶつかってしまった。中国人のようだったが、先を急ぐ私に向かってご丁寧に日本語で「ばかやろう」と叫んでくれた。スーツケースの上には、大きなリラックマの顔がそのままバッグになったものが置かれていた。ほっこりした気持ちになった。

浦東空港は入国審査等で機械化が進んでいたので、ある程度スムーズに次のフライトの搭乗口まで行くことができた。手荷物検査に多少時間がかかったのと、モノレールでのターミナル間の移動が発生したが、最終的には搭乗開始から5分後にゲートに到着することができた。


通路側の席に座った。隣は中国人らしき中年男性。これから12時間のフライトがはじまる。

中国東方航空の機内食はなかなか独特だ。なんというか、「中華色の強い味付け」に感じられるのだ。食べられないことはないのだが、美味しいかと問われると答えに窮する。そんなわけで、食後に配られるあたたかい丸いパンに、マーガリンみたいなバターをつけて食べる時にとてもホッとする。

これまでのところ、noteの記事を書いたり、本を読んだり、眠ったりしながら過ごしている。隣の男性は、スマートフォンで何かを読んだり、パソコンをいじったりしていたが、今はタブレットで音を出しながらよくわからないゲームをしている。チラッと覗くと小さなキャラクターが小さなキャラクターを攻撃しているようだ。音を消すようにお願いしようか迷っているが、そこまで不快というほどでもなく、とりあえずそのまま放置している。


ふと、返信しなければならないいくつかのメールのことを思い出した。ここ数日、多忙により余裕のない生活を送っていたせいで、やり残した仕事がいくつもある。出国前、noteなんて書いていないでパソコンでメールの返信をすればよかった…と後悔した。

後悔したものの、パリに着くまで何もできない。今このように飛行機の上でオフライン状態の私は、地上においては存在していないのと変わらないのだ。

飛行機の中で、いつも思う。このままずっと飛び続けて、オフラインのままだったら、どれだけ楽なことか、と。私を追いかけるあれこれの魔の手から、飛行機の中だけは逃げることができるのだ。機内食がイマイチだろうと、隣のおじさんが音を出しながらくだらないゲームをしていようとも、そんな些細なことは気にならない。人間関係から、仕事から、そして生きることから解放されたら、きっと驚くほどに楽なのだと思う。


『ルックバック』という中編アニメ映画をiPadにダウンロードしていたので観た。ネタバレにならないように観た人にしかわからない形で書くが、最後が骸骨になっている4コマ漫画は、きっとそのまま引きこもっていたら死んでいるも同然であることを暗示していた一方で、結果的にはどちらの世界線であれ、藤野の存在によって京本は生へと呼び戻されていたのが印象的だった。どのシナリオが一番ふたりにとって幸せだったのかは、私にはよくわからないが、痛みを伴いながらも生きることが、そこでは魅力的であるように映った。


あと3時間半ほどで、私も生の側に引き戻される。パリ滞在は1ヶ月ちょっと。その間、多少の痛みはあったとしても、魅力的な時間が過ごせますように。


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