人間だもの
クリエーターといった類の職業に就く人は、得てして神格化されやすい。特に香水は、その「目に見えない」という特性も相まってか、それに携わる人をやたらとカッコよく見せがちだ。調香師がいい例だろう。神だのなんだの、よくわかっていない人が使いがちな“これ以上のものが見当たらない系賛辞”を使って取り急ぎ褒めちぎる。その反面、実際に作っているものが大したことのないケースは枚挙にいとまがない。残念でならない。
俯瞰的な立場から見た神格化の良くない点は、本業と関係のないところまで崇高にしてしまうところだろう。その人物像をも神に近づけているような描写を散見するが、本業における能力はさておき、それ以外の部分に関しては「普通の人」であることがほとんどだと思う。優れた経営者が皆とてつもない人格者かとんでもないサイコパスかのどちらかであるわけではないのだ。普通の人も当然いるし、実際はそれがマジョリティだろう。
香水の世界はやたらと「神」だの「天才」だの「スター」だのといった言葉を使いがちだが、足元を見てみるとセンスのない人が作るセンスのないもので溢れている。そのチグハグさに私は常々違和感を抱いていた。だから私は、私自身のありのまま、つまり「凡人」としての姿を曝け出しつつ、センスのあるものを世に送り出そうと試みている。後者の試みがうまくいっているかは消費者のみが判断する権利を持っているが、前者に関してはこのnoteによりかなり達成できているものと思料する。
私は不完全で、よく失敗をし、落ち込む。だらしないところもたくさんあるし（整理整頓が絶望的にできない、とか）、未熟で、偏屈だ。私はそういったところを積極的に開示していきたいと考えている。
このスタンスに立った時、私は昨晩私の身に起こった出来事を完全にスルーできない。詳細までは書かないが、今日はそのことに少し触れようと思う。
昨晩、彼女と別れた。細かいことは割愛するが、単純にいうと私が振られた。それなりの期間付き合ったこともあり、ショックだった。
私の心の中は、悲しみと怒りが、ちょっといい居酒屋のハイボールにおける炭酸水とウィスキーの割合で混ざっている。そのなかなかに絶妙な配合により、1人でいるとあれやこれやと考え続けてしまうのだ。当然うまく寝付けない。昨晩は空が明るくなるまで眠れなかった。
月曜は出張で朝一に浜松へ行かなければならない。東京には火曜日の午後に戻ればいい。であれば、熱海で一泊して、海にでも浸かってこよう。そうだ傷心旅行だ！
そうと決まれば早い。海まですぐに行けるホテルを予約して、買うものをリストアップした。海パンとサンダル、そしてゴーグルがあれば海では十分楽しめる。
海パンは原宿のユニクロで調達。日曜昼下がり、駅目の前のユニクロは当然混雑していた。店員さんも忙しそうにしていたが、私が海パンのありかを尋ねると、その場所まで親切に案内してくれた。若い男性の店員だった。
サンダルは、竹下通りを抜けた先にあるムラサキスポーツにて買い求めた。お店の入り口付近にサンダルがずらっとあった。表示を見て、自分の足のサイズに合うものを手に取ったら、ファンキーな女性店員さんが試着するかを尋ねてくれた。とても感じの良い方だった。その必要はない旨伝えると、「これあったほうが便利だと思うんで」と言いながら買い物かごを手渡してくれた。防犯目的であることは知りながらも、とても親切な渡し方だと感心した。
ゴーグルは、明治通り沿いの水泳専門ブランドArenaで購入。こちらも丁寧な対応で、優しさを感じた。
途中、çanomaの取扱店であるContext Tokyoに立ち寄り、そこで散々愚痴った。そしたらなんと、渋谷駅前の銀だこでたこ焼きをご馳走になってしまった。
あれ…みんな私が傷心のこと、知ってるの…？Context Tokyoの方は私が話したからさておき、その他の方々、なんか優しすぎない…？
その後、渋谷の東急ハンズにて、タッパーとアイストレー（冷凍庫で氷を作るあれ）を購入しに行った際も、私は「優しさ」を目撃した。
セカセカと忙しそうに歩いていた店員さんが、山積みになった買い物かごの横を通り過ぎる際に、一番上のものをパッと斜めに置き直した。取りやすくするためだ。
な、なんて優しいんだ…！東急ハンズの店員さんは、こんなに忙しい中、そんな細やかな気配りをしているのか…！
悲しみと怒りのハイボールで満たされていた私の目からは、不思議と世の中は優しく見えた。
そして、私も優しくありたいと、心から思った。
「神格化されがちなクリエーター」というところに話を戻すが、ブランディングという観点からは、それが正しい行為なのかもしれない。スーパーマンが作り出すものだからきっと素晴らしいのだろう、と消費者は勝手に思ってくれるわけだ。
一方で、会社を設立し、ブランドを立ち上げてみてわかることなのだが、自分1人ができることは非常に限られている。数多くの方の協力なしには、ここまで辿り着けなかった。協力者の中には、もちろん消費者も含まれている。
何かを人にお願いして協力してもらう際、自分が“スーパーマン”であるという見せ方はどこまで正しいのだろうか。そういうカリスマ性に惹かれてついていく人もいるのだろうが、私はやはり、私がある特定のことのみはできるが、それ以外のことがからきしダメで、それについて力を貸してほしい、というお願いの仕方の方が、有効であるかはさておき少なくとも誠実であると考える。
消費者も協力者である以上、私は消費者にも「等身大の私」を常に知ってほしいと思う。私はスーパーマンでもなんでもなくて、彼女と別れたショックで熱海に1人で傷心旅行に行っちゃう、ただの普通の34歳男性なのだ。
これを読んだ方には、面白いと思ったら良いねやリツイート、あるいは励ましのコメントをしてほしいと私は思うし、もし傷心した34歳の男性が1人で訪れても問題のない熱海の美味しい飲食店があれば積極的に教えてほしい。そういうことを私は先述の店員さん達の優しさのように受け取っているし、それらは私の傷を癒すのに、思いのほか有効であるようなのだ。
さ、傷心旅行でさっぱりしたら、また前を向いて歩こう。
だいぶ長くなってしまったけど、ここまで読んでくださってありがとうございました。
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