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風が吹けば桶屋が儲かる、フランス語を話せば眼鏡が貰える

あ、風が吹いた。
外は埃が舞っている。目に入ったらやだなぁ。
眼鏡をかけていこう。確か、箪笥の中だ。
よい箪笥は1箇所閉めると隣が開く。
ドンっ。
ドンっ。
ドンっ。
あ、眼鏡を探していたらなくしたと思っていた万年筆が出てきた。
まだ書けるかなぁ。
お、書ける書ける。
あぁインクが漏れちゃったよ。
ティッシュを取って、と…あれ、最後の1枚だ。
新しいティッシュを開けなきゃ。
あぁ、でも手にはインクがついてるからなぁ。
よし、これからは家のどこにいても手を洗えるように、家中に桶を置いておこう。
桶屋が儲かる。

  ラーメンズ『ALICE』より「風と桶に関する幾つかの考察」


あ、フランス語を話した。


ここはパリのアイウェアの展示会「SILMO」の会場。私はフランスの老舗ブランド「LESCA」のブースにいる。

詳細は割愛するが、LESCAのとある商談に同席することになった。不思議な風の吹き回しだ。

当該ブランドの日本におけるディストリビューターの偉い人が、そのお客さんに、新作を中心に紹介をしている。私も一緒に見ながら、「あ、これいいですね」とか「うわ、これもすごくいい」などと口にする。

きゃっきゃうふふ。

するとそこにLESCAのデザイナーJoëlが。私たちのきゃっきゃうふふが気になったのだろうか。

「Mouth of Brigitte Bardot」

Joëlが私の眼鏡を指差していう。私はその日、LESCAのヴィンテージ眼鏡をかけていた。どうやらそのモデルのデザインソースが、フランス人女優ブリジット・バルドーの口の形であることを伝えたかったようだ。

「何年ごろのモデルなの?」

私がフランス語で質問すると、少し驚きながら、「72年か73年あたりかな」と教えてくれた。


「どうしてそんなにフランス語が上手なの?」

Joëlが私に尋ねる。6年間フランスに住み、語学学校と大学院を修了したことを伝える。

「LESCAのプロモーションビデオに、日本語字幕をつけたいんだけど、そういうことはできる?」

その質問に対し、翻訳の仕事はしたことがないけど、興味がないわけではない、と答える。具体的なプロジェクトが今あるわけではないようだが、こんなきっかけでLESCAと一緒に仕事ができたらさぞ面白いだろう。これも不思議な風の吹き回し。

その後Joëlとあれこれ話す。一度話し出すと止まらないJoëlは、なんだか楽しそう。なぜか最近引っ越した話まで出た。


「ヴィンテージの眼鏡は見せてもらえる?」

ディストリビューターの方が、Joëlに尋ねる。Joëlは裏に戻り、いくつかの箱を取ってくる。

ヴィンテージの眼鏡が、ずらり。お、お宝だ…!

サイズが小さすぎるものや状態のよくないものもあったが、素敵なもの、不思議なもの、今こそ“気分”のものがたくさん。ディストリビューターの方及びそのお客さんと共に、あれこれかけては「あれはいい」「これもいい」を繰り返す。

眼鏡の展示会って、楽しい。香水よりももっとずっと。それはきっと、作り手がちゃんとプロダクトに愛を持っているからだろう。香水にそれがあるのか、と問われると、その作り手として残念な気持ちになることがある。


「一本選んで」

Joëlに言われるがままに、私はオーバルの、少しラメの入った茶色のフェイスの両外側部分にうっすらと青と白の線の入った、ある意味ヴィンテージらしくない一本を選ぶ。Joëlが箱を開けた瞬間から、なぜかその眼鏡に惹かれていた。

「Cadeau」

Joëlがいう。フランス語で「プレゼント」の意。

「私に?」

驚く。聞き返す。

「フランス語が上手な日本人と話せる機会なんて滅多にない。喜ばしいことだから、ぜひ受け取ってほしい」

精一杯のありがとうを伝えようと試みる。こんな時、どうして言葉というのはこんなにも不器用なのだろう。何にも伝わらないじゃないか。

Joëlがそのプレゼントを入れる袋を持ってきてくれる。丁寧に包んでくれる。


眼鏡が貰える。


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