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「お客様の中にお医者様はいませんか?」
「お客様の中にお医者様はいませんか?」
という、お決まりのフレーズを聞いたことがある人はおろか、ましてやその時実際に医者で誰かを診察したことのある人はほとんどいないだろう。
もちろん私も、そのフレーズを耳にしたことはないし、医者ではないので当然誰かを助けたことはもっとない。
ただ、それに若干近しい経験ならばしたことがある。しかも、助ける側で。
それは私が語学学校を卒業し、フランスの大学院に入る前のこと。滞在許可証(よく「ビザ」と混同されるが、それはまた別物で、海外に長期滞在する際に必要なものの正確な呼び名ではない。詳しい説明は割愛するが、「滞在許可証」が正式名称だ)の更新のために、移民局に向かった。2017年当時は、パリにおいては学生の滞在許可証の更新は、他の滞在許可証に関する移民局とは違う場所で行われていたのだが、それでも多くの人が列を作っていた。更新のためには予約をしなければならない一方で、予約時間通りにことが進むことはなく、結局長い時間を移民局のベンチで過ごす羽目になる。
2015年にフランスに来た私にとっては2回目の更新だった。その頃にはフランスのノロノロとした行政手続きにもかなり慣れてきていたので、丸一日がかりのつもりで移民局へと向かった。
受付を済ませてからが長い。私はそわそわしながら、電光掲示板に表示される番号とそれよりはるかに大きな私の受付番号の差がゆっくりだがと小さくなっていくのを眺めていた。
「日本語が話せる人はいる?」
ひとりの職員が大声を張り上げた。きっと他にも日本人はいるだろうと思ってしばらく黙っていたが、3回目くらいの大声で誰も立ち上がらなかったので、仕方なく私が手を挙げた。
職員の後についていくと、私と同じくらいの年齢だと思われる日本人男性(あとでわかったのだが、私よりも幾分年上だった)が座っているブースに連れてこられた。彼の顔にはうっすらと焦りが滲み出ていた。
彼はフランス語がほぼ話せず、また彼を担当していた職員が英語を話せず(または話そうとせず)だったので、コミュニケーションが成り立たない状態だった。書類の中に一部不明瞭な点があり職員が質問をしたが、そんなわけで当然伝わらず、埒が明かないので私が召集されたのだ。
簡単に通訳をしたところ、後日追加書類を持ってくるという条件付きでその場はおさまった(ように記憶している)。その後わりとすぐに私の番が回ってきて、私の方はつつがなく書類提出を終えた。
建物を出ると、私より少し前に手続きを終えた先の彼がいた。声をかけて立ち話をしたところ、私が離れて以降は特に何も問題はなかったそうだ。
せっかくなので連絡先を交換し、後日飲みに行った。その後も交流が続き、彼の家に遊びに行くこともあった。
そんな彼と、数日前に久しぶりに食事に行った。最後に会ったのは2年ほど前にマレ地区でばったり鉢合わせた時だったが、ちゃんと時間を作って話したとなると、もっと前のことになったはずだ。
彼は彼でだいぶ仕事が安定してきたようだ。将来に対しての漠然とした不安は絶えないが、日々それなりに楽しく生活しているようだった。
思いがけずお互いの近々の悩み相談なんかもしながら、夜はあっという間に更けていった。
不思議な出会いから続いている関係だが、思い返せば、私にとってはフランス語が誰か他の人のために役立ったはじめての経験だったかもしれない。
このnoteでは幾度か、「語学はコスパが悪い」という主旨の内容を書いている。
ただ、ひとつの言語を習得することでしか得られない経験というのは必ず存在している。飛行機の中で「お客様の中にお医者様とフランス語が話せる方はいませんか?」とアナウンスが流れるかもしれないのだ、例えばの話だが。
そんな日のために、語学をぼちぼち勉強するのは、きっと悪いことではないだろう。
なんてね。
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