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オレンジ色の笛の音と目に見えぬ風船
朝からいくつかのミーティングが続いた後、パリ中心地からシャルル・ド・ゴール空港に向かう電車に乗ったのは15時ごろだった。イスタンブール行きのフライトはてっきりターミナル2Fから出るものだと思い込んでいたが、着いてみると電光掲示板にはそのフライトが表示されていなかった。改めて搭乗券を確認すると、なんとターミナル1から出るとのことだった。
なぜそんな勘違いをしたのか不思議に思いながら、私は荷物を引きずってターミナル1に向かうための電車に乗り込んだ。
16時過ぎにターミナル1に着いた。フライトまではまだ余裕があったが、チェックインカウンターからは長蛇の列が伸びていた。結局、荷物の預け入れ、出国審査、手荷物検査の全てが終わったのは出発の1時間ほど前だった。ペットボトルの水とコーヒーを買ってゲートに向かうと、珍しく早めに搭乗が始まっていた。空港で少し仕事をするつもりだったが、予定が狂った。まぁしょうがない。そういうこともあるさ。
搭乗から離陸までの時間、私は睡魔に勝てずに眠り込んだ。思いがけず深い睡眠だったようで、離陸後は逆にはっきりと目が覚めてしまった。ヘッドホンをして本を読んでいると、なんだか機内が騒がしく感じられた。どうやらサッカーのユーロカップをリアルタイムで機内で観れるようで、フランス人たちがそれに一喜一憂していたのだ。
ガルシア・マルケスの『百年の孤独』は最後の方に差し掛かっていた。今回で読むのは3度目になる。大筋のストーリーは頭に入っているはずなのに、毎度全く違った印象を私に与える。今回は前の2回以上に、登場人物それぞれの孤独を強く感じた。
彼女はただその場に投げだされたようになり、身を守ろうとする意志は、死のかなたで待ち受けるオレンジ色の笛の音と目に見えぬ風船が、いったい何であるかを知りたいという、あらがいがたい渇望によって突きくずされた。
この箇所を読むのも当然3度目のはずなのに、今回私はこの一文に強く惹きつけられた。
「死のかなたで待ち受けるオレンジ色の笛の音と目に見えぬ風船」とは、何を暗示しているのだろうか…なぜ笛の色はわかるのに、風船は見えないのだろうか…なぜそれらは「身を守ろうとする意志」を「突きくず」したのだろうか…
全くわからなかったが、どこかすでにそれを“知っている”気がするような自分もいる。それはなんと恐ろしいことだろう。
梨木香歩さんによる解説まで読み終え、この素晴らしい読書体験のためにぼーっとしてしまった私は、まわりのフランス人に倣ってサッカーを観ることにした。残り時間はあと20分ほどで、スペイン相手に2対1で負けているところだった。
普段はサッカーなんて観ることはないし、ましてフランスを応援することはもっとないが、空の上の私はその両方をおぼえずやっていた。思いがけず面白かったが、私はぼんやりと、違うことを考えていた。
試合はそのまま終了した。着陸まではあと20分ほどになっていた。試合に興奮したフランス人たちが機内で延々と喋っていたので結局ずっと騒々しいままだった。
着陸はスムーズで、ほとんど揺れなかった。私が今まで経験した着陸の中で一番静かなものだったかもしれない。減速中に機内では大きな拍手が起きた。
そんな中私はひとり、ぼんやりとしていた。
オレンジ色の笛の音と目に見えぬ風船…
私もいつか、それらが何であるかを知りたいという衝動に駆られるのだろうか。
それとも、もう駆られているのだろうか…
そんなことより、羽田行きのフライトまであまり時間がない。まずは乗り換えを急ごう。オレンジ色の笛の音と目に見えぬ風船については、また改めてゆっくり考えることにしよう。
まだまだ、先は長いのだ。
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