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今日も今日とて自己紹介 〜フランスに来てから香水ブランドを立ち上げるまで Part 4. インターン編〜

今日の写真は、かくれんぼをしているアテナ。
※本文とはなんの関係もありません。

昨日の記事では、Jean-Michel Duriez Parisというブランドでインターンをすることが決まったところまで書いた。今日はきっと、インターンの内容だけで終わってしまうと思う。昨日の時点では、この自己紹介シリーズ、Part 4で最終回と宣言したが、あともう1回か2回くらいは必要になりそう…まぁ、気長にやりましょう。

Jean-Michel Duriez Parisというブランドは、Jean Patou、Rochasの元調香師であるJean-Michel Duriez氏(以下ジャンミッシェル)と、P&Gのマーケティング部門にいたGuillaume Auffret氏(以下ギョーム)によって、2016年12月にスタートしたニッチフレグランスのブランドである。

ここで補足。現在香水のマーケットには、皆様がご存知の大手ブランドが出す香水の他に、ニッチフレグランスというジャンルが存在している。明確な定義はないが、ざっくりと「香水のみを作っている小さなブランド」だと考えて欲しい。
ちょっと脱線。メディアにおけるニッチフレグランスの定義は、若干ミスリーディングであると感じている。例えば、Google先生に、「ニッチフレグランスとは」と尋ねると、Elle girlの下記の記事が一番上に提示された。一部引用させていただく。

今、スタイリッシュなガールズの間で人気急上昇中の“ニッチフレグランス”って知ってる?  
マスマーケット向けのものではなく、香りのプロ、調香師のこだわりがぎゅっと詰め込まれた、個性溢れる香水のこと。大量生産では実現しない希少な天然香料を使用していたり、今までは組み合わせてこなかったような実験的な調香のものがあったりなど、まるでアートのよう。
(Elle girl 2019年3月1日 『人とは違う香りを纏いたい! 一歩先ゆく“ニッチフレグランス”のすゝめ』)

Elle girlを批判する意図はない。こういう定義が散見されるので、それに対して私見を述べたい。
まずはこの文章を読むと、マスマーケット向けの香水がさも調香師のこだわりが詰まっていない陳腐なもののように読み取れるが、そんなことはない。マスマーケット向けの素晴らしい香水はたくさんあるし、しょーもないニッチフレグランスも星の数ほどある。
また、ニッチフレグランスだからと言って、個性溢れる香水であるとは限らない。例えばここで紹介されているParle moi de parfumや100BONというブランドは、個性的な香りがするとは言い難い(誤解のないよう補足するが、だから悪いと言っているわけではない)。
さらに、天然香料のことに関して触れだすとややこしくなるので細かくは説明しないが、「大量生産では実現しない希少な天然香料」を使っているニッチフレグランスのブランドはほとんどないと思われる。
「今までは組み合わせてこなかったような実験的な調香のものがあったり」するという部分のみが正確だ。マスマーケット向けのものでは、実験的な香水はほぼあり得ないが、ニッチフレグランスにおいてはそれが可能になる。念のため付け加えるが、私はそれに関して良いと言っているわけではなく、そういうものが存在している、と言っているにとどまっている。
まとめると、ニッチフレグランスを語る際に、マスマーケットを悪者に仕立て上げ、ニッチフレグランスをより上位の存在として祀りあげるのは、あまり正しい説明のように思えない。
マスマーケットとニッチフレグランスについては、どこかでしっかり説明することにする。今回はこの程度で。
ということで、私が「ニッチブランド」や「ニッチフレグランス」と書く時は、名前がそこまで知られていない香水ブランド、及びそのブランドが作る香水、という程度に考えて欲しい。反対の言葉として、「マスマーケット」や「メインストリーム」という言葉を使うが、それはシャネルやディオール等々、誰もが名前を知るブランドの香水だと考えていただければ問題ない。

ちなみに現在のグローバルの香水市場において、マスマーケットの占める割合が9割、ニッチブランドが占める割合が1割、と言われている。

話を戻そう。インターンの話。
本当はここで、ジャンミッシェルがどれだけ素晴らしい調香師であるかについて滔々と述べたいのだが、それはいつか、彼についての記事を書くことで説明することにする。この道30年以上の大ベテランで、調香師の世界で彼のことを知らない人はいないと言っても過言ではないほどの調香師だ。
ビジネススクールに通っていたため、インターンで私に期待されていた仕事は主にマーケティングやファイナンスだった。一方で私の他に上記2名とあと1人インターン生がいただけの小さい組織だったので、なんでもやるというのが実際のところだった。

インターン初日にギョームから告げられた一言が忘れられない。
「いいかユータ、この会社は小さい組織なんだ。だから俺たちは3週間しかヴァカンスを取らないことにしているんだ、ユータにも3週間しかないからな。申し訳ない。」
3週間ヴァカンスもらえるんですか…?
通常フランスでは、年間有給が5週間もらえることとなっている。だから彼らにしてみれば、3週間というのは半分に近いわけだ。それにしても、3週間…長くないか…?
結局私はその夏、この3週間のヴァカンスを使って、スリランカに旅行に行くこととなる。

とにかく、ジャンミッシェルとギョームの2人は紳士だった。人間として素晴らしかった。
「俺たちは会社を始めるときに、周りの人に対して紳士でいようと決めたんだ」とあるときギョームが言っていた。そして2人は実際にそうしていた。

インターンが始まって間もない頃のある日、ジャンミッシェルがある1つの香水の改良のための試作品を皆に渡し、それについて意見を翌日までにメールで送るように依頼した。その香水は「いい香りだが持続時間が短い」という問題点をはらんでいて、香りと持続時間を両立すべく、ジャンミッシェルは改良に取り組んでいたのだ。
ギョームともう1人のインターン生は早々に、「前のよりも長持ちするしいいと思う」という短いメッセージを返していた。が、私の考えは違っていた。ジャンミッシェルはその香りが長持ちすることを優先すべく、ISO E Superと多分Ambroxanだと思われる人工香料をその香水に加えていた。それにより、確かに香りの持続時間は上がったが、本来その香水の特徴であった柔らかさが損なわれ、若干トゲトゲした印象を私に与えたのだ。そのことをジャンミッシェルへのメールに書き、最後に、
「香りの持続時間を優先することで、その香りが持つ美しさが損なわれるのでは本末転倒だから、オリジナルのバージョンのままにするべきだと思う」と付け加えた。

翌日、ジャンミッシェルは笑顔で私を迎え、「ユータのいう通りだと思う」と言って、シャネルの“Pour Monsieur”の話を始めた。素晴らしい香りのこの香水は、ジャンミッシェルの香水同様、長持ちしないという欠点を持っていた。そこでシャネルは、“Pour Monsieur Concentrée”という香水でその欠点を改善しようとしたが、オリジナルの持つ素晴らしさには勝てなかった…

ジャンミッシェルはこの後、その香水が持つ欠点を解消するために、新たな試作品の制作に取りかかった。

このやりとりを境に、ジャンミッシェルと香水についての意見交換が増え、私の仕事の中での香水のクリエーションに関する部分の割合も大きく増えることとなった。試作品に対しての意見を求められることが増え、その意見を尊重してもらえるようになった。

さて、すでにかなりの分量になったので、インターンの話はこのくらいにしておく。本当はもっと書きたいことがあるのだが…
なぜこの私のちょっとした“自慢話”を書いたかというと、自慢話は話すことにより初めて自慢話となり、自尊心を満たすものとなる、という点も否めないのだが、それ以上に、『パリマジック』について最後に書きたかったからだ。

前回の記事まで読んでいただいた方にはなんとなくお分かりいただいているかもしれないが、大学院入試、インターン探しと、パリに来てなかなか泣かされていた。自分の思い通りに行かない中、なんとか道を見つけて匍匐前進しているような状況だった。インターンも、インターン開始日の10日ほど前にようやく決まったくらいだ。
これはパリに長くいる日本人に言われたことなのだが、パリには『パリマジック』なるものが存在する。パリに来て、嫌なことやうまく行かないことばかりが続くのだが、ある瞬間、奇跡的なチャンスが急に目の前に現れる。それを掴める人がパリで生き残っていける。そのチャンスは、『パリマジック』とまことしやかに呼ばれている、と…
私にとってのパリマジックは、ジャンミッシェルのところにインターン生として拾ってもらい、そこで試作品の意見を求められたことだった。これは自分をアピールする絶好のチャンスだ、と思ったのだ。このチャンスを逃すまい、と思ったし、あの時の私の試作品への評価があったから、ジャンミッシェルに認められて、今につながっていると思う。

次の記事では、その後どのような経緯でブランドを作る決意をすることになったかについて書いていきたいと思う。次までを自己紹介シリーズとするか、その先まで含めるかは目下検討中。毎度毎度長い記事ですみません…楽しんで読んでいただけているのなら嬉しいのですが…

ところで、「スキ」に対するお礼メッセージを設定してみたのだが、「スキ」とつなげると1つの単語になるようにしてみたので、試しに押していただきたい。

次回も乞うご期待〜!

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