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不細工髭面ズングリムックリの人助け

9号線のAlma - Marceau駅でのこと。

帰宅ラッシュと小学生らしき集団の遠足がバッティングして、駅の改札はごった返していた。ただでさえ通過するのに時間のかかる、いささか時代遅れの改札機の前には長蛇の列。特段急いでいなかった私は、列の後ろに並びながらもここで電車に乗るか迷っていた。

すると後ろの方で日本語の会話が聞こえた。振り返ると日本人女性ふたりが、構内に貼ってあるパリのメトロの地図を見ながら、「これでいいのかな…あ、いやこれは違うか」などと口々に言い合っていた。

声をかけるかどうか迷い、一度改札の方に向き直ったが、やはり思い直して、彼女たちのところに行くことにした。

「何かお困りですか?」

振り返ったふたりのうち、少し年齢のいった方が驚きながらも、

「はい、困ってます。凱旋門まで行きたいのです」

と答えた。

「凱旋門だったら、Charles de Gaulle - Étoile駅に行かなければならないので、ここから9号線に乗ってFranklin D. Rooseveltまで行って、そこで1号線に乗り換えれば大丈夫ですよ」

「ありがとうございます」

ふたりは微妙にずれながらも、それぞれそう口にした。


彼女たちの「ありがとうございます」のトーンで、声をかけるべきではなかったことをなんとなく悟った。私は逃げるように改札の列へと舞い戻った。


こういう経験ははじめてではない。というか、パリで困ってそうな日本人に、迷った末に声をかけた結果、「声をかけてよかった」と思えたことが私にはない。「あ、全然大丈夫です」と迷惑そうにいわれたり、先の例のように、私の行いが“ありがた迷惑”として受け取られているような反応をされることばかりなのだ。それもあって、毎度話しかけるかかなり迷うのだが、「本当に困ってたらなぁ…」と思い一応声をかけるようにしている。そうやって私は“余計なこと”の経験値を重ねていく。

私は私なりの親切を私の勝手で遂行しているだけなので、それに対してのリアクションがどうであっても基本的に構わない。ただ、明らかに困っている人たちに対して、どういう声の掛け方をすれば正解なのか、あるいはいついかなる場合においても声をかけないことが正解なのか、については、そろそろ明らかにしたいと思っている次第。もしかしたら、せっかくフランスにいるのだから、イケメン、あるいは美人なフランス人に助けてもらいたい、と密かに願っているのだろうか。それが声をかけたのが不細工髭面ズングリムックリの私だから、ガッカリしてしまうのだろうか。

どうなのだろう…


逆に日本で困っていそうな外国人に声をかけた時は、「あぁ、声をかけてよかった」と思えることがほとんどだ。最近だと近所のコンビニで豆乳がどれかわからず困っていたフランス人女性ふたりに「豆乳」の2文字を教えたが、素敵な笑顔で感謝してもらえた。代々木上原が終点の千代田線に乗っていた外国人夫婦に、下北沢への行き方を教えてあげた際も、世間話でしばし盛り上がった。


もしかしたら、日本人は海外が「危ないところ」という認識があるから(もちろんそれはそれで正しいのだが)、知らない人に声をかけられると警戒してしまうのかもしれない。あるいは、そもそも日本国内であっても、知らない人からの声かけは怪しいものだとされている、とも考えられる。特に東京だと、無闇に声をかけるとまずはナンパや客引きだと疑われるのだろう。確かに私も、東京の繁華街で声をかけられた際は無視することが多い。

一方で、ヨーロッパでは知らない人に声をかけることへの抵抗が少ない。昨日も道を歩いていたら、「そのバッグどこのブランド?」と女性ふたりに声をかけられたし、ちょっとしたことで知らない人と少し立ち話をするというのはよくあることだ。


さて、私はこれから、パリで困っていそうな日本人を見かけたときに、やはり声をかけるべきなのだろうか。それともそんな迷惑そうにされるのであれば、もうこれからは放っておくのがいいのだろうか。

先日の出来事の後、しばらく考えてみたが、結局私はこれからも声をかけ続けるのだと思う。

理由はふたつ。

ひとつは、もし放置したら、後々私が後悔しそう、というもの。もうひとつは、もしかしたらいつか、本当に困っている人を助けることになるかもしれない、というもの。


これから私に声をかけられる方々、不細工髭面ズングリムックリが来ても、ガッカリしないでくださいね。こればっかりは、修正できないものでして…

何卒、よろしくお願いいたします。


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