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ある晴れた土曜日に考えたこと

今日土曜日は久しぶりによく晴れた。パリに到着して10日ほどになるが、雨が降らなかった最初の日となった。

朝ごはんの後に溜まっていた洗濯物をこなした。きっとよく乾くだろう。

ランチの予定があったのでお昼前に外に出た。いつの頃からか、晴れた日は季節に関係なくサングラスが手放せなくなった。そんなところでも歳を感じる。

冬のパリの日差しは東京のそれと比べると刺すような強さを覚える。オゾン層とか空気とか、物理的な理由があるのだろうか。それとも心理的な理由なのだろうか。いずれにしても、色の濃いサングラス越しにも、そのパワーを感じ取れる。


のんびりとしたランチの後は、マレ地区にちょっとした用事があったので立ち寄った。久しぶりの晴れた土曜日だからか、街は人で溢れかえっていた。至るところに行列ができていたのがいささか不思議だった。レストランに限らず、ブランドの路面店やショッピングモールの前にも、かなりの長さの列が散見されたのだ。イベントでも行われていたのだろうか。


用事はすぐに終わった。パリの日差しの中、私は何をするべきか戸惑ってしまった。特段やることもなかったし、その上ここ数日の忙しさでだいぶ疲れていたので、家に帰ってゆっくり休むというのが一番“正しい”選択だったはずだ。

ただ、その日はどういうわけか、買い物がしたい気分だった。きっと太陽のせいなのだろう。

そんなわけで、パリ左岸にある百貨店「Le Bon Marché」まで足を伸ばすことにした。先日ちょっとだけ立ち寄った時に、かなり思い切ったセールをしていたので、もしかしたら掘り出し物があるかもしれないと思ったのだ(結局私はこの後とあるブランドの白シャツを80%オフくらいで購入することになるが、それはまた別の話)。

Googleマップによると、96番のバスで行くのが最適ルートとのことだった。5分ほどで来たバスはひどく混んでいたが、運転席近くの席が空いていたのでそこにおさまった。

停留所に停車するこどに、降りるよりも多くの人が乗り込んだ。乗車にも一苦労するほどバスがすし詰めになっていくにつれ、閉所恐怖症の発作が出そうになった。私は閉じられた場所から出られないと思うと急に恐怖を抱いてしまうのだ。もちろん、バスだからいつでも降りられるのは頭ではわかっているが、心は犬のように、目の前の出来事に理解が追いつかぬまま、恐怖に慄いていた。

そんな心を落ち着かせようと、外に目を向けた。歩道側にあった私の席からは、百貨店の前にできた行列が、バスの進行方向と反対側に流れていた。

バスが信号で止まった時、その行列の横に、寝袋に頭までくるまったホームレスの姿が目に入った。寝袋の周りには汚れに汚れたリュックが無造作に転がっていた。


そういえば、パリの街で見かけるホームレスや物乞いの数が前よりも少しだけ増えたような気がする。

先日、雨の中ルーブル美術館の近くを歩いていた際、同様に頭まですっぽり隠れた寝袋で、小さな広場のようなところで寝ている人を見た。遮るものは何もない本降りの中、ミイラのようは寝袋が横たわっている姿は私の目には異様に映った。その人は雨をものともしない強さの持ち主なのか、あるいはもうそこから一歩も動く気力がないのか、私にはわからなかった。

地下鉄1号線に乗っているとき、小銭を求めて車両を渡り歩く男性の大きな声が聞こえた。目があわないようにスマートフォンへと視線を落とした。彼が私の横を通過する際、スマートフォン越しに指のない右足が目に入った。私はどこかで間違いを犯したような気がした。


パリに住み始めたのは10年近く前のことになる。そこから6年生活し、今は日本に居住を移したが、それでもパリには頻繁に来る。

この10年の中で、私の生活はゆっくりだが着実に変化した。金融機関を辞めて、パリで貧乏学生生活をスタートさせた。語学学校、大学院と進み、フレグランスブランドでのインターンを経て自身のブランドを立ち上げるに至った。様々な問題を抱えながらも、ブランドはなんとか5年目に突入した。日々苦しいこともたくさんあるが、振り返ってみるとひどく遠くまで来た。

ホームレスや物乞いの数は実際に増えているのだろうか。それとも、今までは日々自分のことだけで必死だったからその姿が目に入らなかったのだろうか。私にはよくわからないが、なんとなく後者であるような気がする。


1つ前の投稿はフランス時間では1月に行われたものなので、私にとってはこれが2月最初の記事となる。

2月は特別な月だ。立春、建国記念の日、バレンタインデーも去ることながら、10日には私の誕生日が控えている。ぜひ覚えておいていただきたい。私は建国記念の日の1日前に生まれた。つまり、日本よりもひと足さきに誕生した、ということだ(違うわ)。

37回目となる今回、もしかしたら私は、自分のことばかりではなく、ほんの少しだけ周りを見渡すべきなのかもしれない。ちょっとだけだが余裕も出てきたようだ。そういうタイミングなのだろう。


だから、残り1週間ちょっとの36歳は、自分のことばかりをしっかりと考えようと思う。それはそれで、きっと大切なことなのだから。


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