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波間に揺蕩う小舟

「サロンドパルファン2024」の2日目終了後、私は新宿のファミレスにいた。ペラペラのサーロインステーキと大きな唐揚げふたつを、ドリンクバーで注ぎに注いだリアルゴールドで流し込んでいた。

「ミシュランガイド東京2025」で星を獲得したレストラン一覧を見ながら、私はその中に「ガスト新宿靖国通店」の名が出てくるのではないかと思っていた。心の充足感に比べ胃袋の中がスカスカだったからだろうか。


三越伊勢丹グループのカード会員限定の入場だった昨日に対し、今日からは全ての方が入れるようになった。そんなわけで、平日木曜日にも関わらず、多くの方にお越しいただいた。

たくさんの友人にも来てもらった。皆一様に、お客さんの少ない時間に風のように現れ、元気をお土産にまた風のように立ち去っていった。


忙しくも楽しく接客をしていたら、あっという間に閉店時間となった。今までであれば6時ごろからだんだん客足がまばらになっていくのだが、今回は最後まで途絶えることはなかった。

レジ締めをしてみると、なんとçanomaのポップアップの単日の売上で過去最高額を更新していた。

ふと気になって、今日よく売れた「3-17 ヘア・ボディオイル」と「10-20 蜻蛉」の在庫数を数えてみた。

「3-17 ヘア・ボディオイル」は当初持ってきていた数の3分の2ほどに、「10-20 蜻蛉」は半分を切っていた。これから一番集客の見込まれる土日が待っている。慌ててその場で倉庫に発送依頼をかけた。誤解のないように記載するが、私はイベント期間中に在庫切れを起こさないと想定される数を予め納品していた。

追加発注分は土曜日の午前中には到着するはずだが、それまで今ある在庫で間に合うだろうか…明後日までもってくれよ、在庫ちゃん…!


今日の接客の中でひとつ、驚いたことがある。それはお客さんの中に占める私のnote読者の割合が著しく増加した、ということ。今までも「サロンドパルファン」の際はそれなりの数のnote読者に来ていただいていたが、今回はそれが急に増えたように感じられた。しかも、「note読んでます」と伝えてくれた方の話を聞くと、皆かなりしっかりと読み込んでいる印象を受けた。

それに加えて、男性の読者が増えたような気がする。今までの「note読んでます」は、どちらかというと私よりも年上の女性から聞くことが多かった。それが今日は若い男性からもその言葉が出てきたのだ。

noteのフォロワー数は変わらずゆっくりとしか増えていないし、アクセス数に関しても同様だ。そんな中わざわざ「サロンドパルファン」の会場まで会いに来てくれた方が劇的に増えたのはどういうわけなのだろうか。今日がたまたま「note読者デー」だったのだろうか。謎は深まるばかりだが、もちろん嬉しかった。


「お母様も見かけましたよ」

その言葉を発した方は、çanomaの日本でのローンチの時に香水を購入してくれたとのことだった。

それは今からちょうど4年前、通称「裏サロパ」と呼ばれていた、GINZA SIXで「サロンドパルファン」と同じタイミングで行われていたフレグランスイベントでのことだった。

小さな棚に4つの香水を置いただけのçanomaだったが、そこに思いがけず多くの人が押しかけ、すぐに在庫切れを起こした。その頃はまだオフィスもなかったので、急遽倉庫から自宅へと香水を送ってもらい、それを母にタクシーで届けてもらったのだ。

香水を私に送り届ける母の姿を、その方はどうやらたまたま見かけたようだ。


あれから4年が経った。

4つの香水からスタートしたçanomaは、7つの香水、3つのお香、2つのハンドクリーム、シャンプー、トリートメント、ヘアオイル、そしてお香立てを持つブランドになった。取扱店も増えたし、メディアにも取り上げてもらえるようになった。

そして私は、母を失った。1年半前のことだ。


私は今、時間をかけて、ゆっくりと「彼女のいない世界」に心と身体を馴染ませていた。それは概ね成功していたように思う。

不思議なもので、その世界に慣れると、彼女のことを忘れたわけではないものの、最初から母がいないことが“前提”となっている世界に住んでいたように感じられる。

今日のその言葉は、そんな中で私に、母が間違いなくこの世に存在していたことを思い出させてくれた。GINZA SIXの2階、çanomaのブースから少し離れた柱のところで、私が慣れない接客で悪戦苦闘している様子を、あのひだまりのような微笑みを湛えて見守っていた彼女の姿が、私の脳裏のスクリーンに、鮮明すぎてまるで夢のようにはっきりと、映し出されるのを見た。


彼女がもし今の私を見たら、どのように感じるのだろう。まだ波間に揺蕩う小舟に乗る私を、その4年前よりも誇りに思ってくれるだろうか。

そうだと、いいな。


もしかしたら、今回も「サロンドパルファン」の会場のどこかで、彼女は私のことを見ているかもしれない。そんな彼女に、“いいカッコしい”を、残り4日間、目一杯しようと思う。


【çanoma公式web】

【çanoma Instagram】
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