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チグハグなミーティングと沈みゆく業界

「それで、御社は何かブランドのテーマとかコンセプトは掲げていらっしゃるのですか?」

そう質問された時、私はうんざりを通り越してガッカリした。それは私が直前まで説明していた内容だった。


そのミーティングは開始早々から暗雲が立ち込めていた。先方からのリクエストでセッティングしたものなのに、なんと「çanoma」というブランド名すらきちんと知らなかったのだ。

その後もチグハグな会話が続いた。

「お茶と関係のあるブランドなんですよね?」

ブランド名の由来からなのか、ほうじ茶をテーマにした香り「10-20 蜻蛉」からなのか、いずれにしても一部分だけを切り取った解釈だ。というか、そもそもブランド名の由来も、「10-20 蜻蛉」の話もしていないような気がするけど…

「オンラインメインでやっていらっしゃると思うのですが、どうやってお客さんに香りを試してもらっているんですか?」

卸が中心であることは少しでも調べればわかることだし、それ以前にさっき卸先について話したよね…?もしかして、「卸」って言葉、知らない?

「香水だけだと販路が限定されますよね?そのあたりはどうしていますか?」

商品ラインナップ、見たでしょ。香水以外もあれこれありますよ…


チグハグな会話の背景はふたつあったと思料する。ひとつは、こちらの話を全然聞いていないということ。きちんと頷きながら聞いている風だが、どういうわけか右から左へと話がすり抜けているようだった。もうひとつは、よくわからない思い込みをしているということ。お茶に関連するブランドである、オンラインメインでやっている、香水だけしか商品がない、等は、どうやらミーティング前からçanomaに対して持っていたイメージのようだった。

ちなみに、ミーティング相手は若い方と年配の方のふたりだったが、このふたりともがこのふたつの問題を抱えていた。せめて片方だけでも話をきちんと聞いてくれるか、あるいは変な先入観をもっていなければ、もう少しまともなミーティングになったはずだが、ふたりが揃いも揃ってこの有様なので、にっちもさっちもいかなかったのだ。


このままだと私にとっては耐え難いミーティングになりそうだったので、ブランドやフレグランスの話は横に置いて、とりあえず相手に話を振ってみることにした。

ミーティング相手のふたりは、昨今のマーケットの変化の中で苦境に立たされていると認識されている業界に身を置いていた。

「実際のところどうですか?」

と私が尋ねたのを皮切りに、ふたりのうちの年配の方が堰を切ったように話し始めた。昔のいい時期を知っているからだろうか、とにかく昨今の酷い状況について、事細かに説明し出したのだ。その中にはなかなか面白い情報も含まれていた。私の“作戦”はどうやら功を奏したようだ。


その話を“BGM”に、私はなぜこの業界が苦境に立たされているのかについて考えていた。実際、その方の説明の通り、マーケットの変化によってそれまでのビジネスモデルが成立しなくなっていることも、それを簡単には変えられないことも、とてもよく理解ができる。ただ、それだけではないように感じ始めた。

ミーティングを通して、最終的に、中にいる人にも大きな問題があるのではないか、と思ったのだ。


実は、この業界の違う方と以前ミーティングをした際も、今回ほどひどくはなかったが、やはりチグハグな会話になってしまった。そしてその理由は今回同様、こちらの話を聞いてもらえていないことと、よくわからない先入観のふたつだった。

過去のいい時代を知っている古参が取引先に対してふんぞり返っているのを、新参が見て同様の対応をし、結果としてそれが慣習化してしまった。業界が苦境に立たされている今、話を聞くことができない集団が出来上がってしまっているが故に、外からの意見が全く採用されなくなっている、というのが、実は根本の問題なのではないか、という考えが、私の中でゆっくりと生まれてきた。それと同時に、この業界がこのまま静かに沈んでいく姿がぼんやりと見えた。


ミーティングが終わる頃にはふたりは満足げな表情を浮かべていた。日々の鬱憤を愚痴ることで晴らせたのだろう。

私は次の用事に向かいながら、先のチグハグなミーティングのことを思い出していた。この業界の人たちが、仮に他の取引先とも私とのミーティング同様のチグハグさで会話をしているとしたら、業界が今のところ存続していることがすでに奇跡なのかもしれない、とも思った。

チグハグなミーティングに最初はイライラしていた私だったが、そんなことを考えていたら、だんだんとその業界の中にいる人が可哀想に思えてきた。外からの意見を聞くことができず、沈みゆく船の中で何もできずに怯えているだけ、たまにくる取引先に偉そうな態度を取るか愚痴るかが数少ない楽しみのひとつ…もはや彼ら彼女らは、そういう状況かもしれないのだ。


業界について具体的に書くと角がたつと思い、あえて伏せることにした。それゆえに分かりにく内容となってしまい申し訳なく思うが、なんらかの沈みゆく業界を想像してもらえれば、きっと多かれ少なかれ、この状況が当てはまっているはずだ。

周りの意見を聞くって、大事ね、本当に。


【çanoma公式web】

【çanoma Instagram】
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