良い香水、そして日本人のための香水
ここ最近の記事で何度か書いたが、私は昨今の香水マーケットに非常に不満がある。不満があるのは、私が考える香水のあるべき姿と、今の香水のあり方に乖離があるためだ。かくして私は香水ブランドの立ち上げを決意するに至った。
勘違いしてほしくないのは、私はそんな香水マーケットを変えるべくしてブランドを立ち上げたわけではない、ということだ。
私は香水が好きだが、今のマーケットには私が身に纏いたいと思える香水が少ない。だから私はまず、そんな自分を満足させるためにジャンミッシェルの協力のもと香水を作っている。
そして、それをブランドという形にしているのは、私と同じように感じている消費者が、実は潜在的にかなりの数いるのではないか、という仮説を持っているからである。もしそういった人の潜在的なニーズを解決できるのであれば、私のブランドには社会的意義があったこととなる。
一方で、今の香水マーケットに満足している人がたくさんいることも事実だ。好きな香水だらけで、いくらお金があっても足りない!という人もかなりいると思う。私はそういった価値観を一切否定するつもりもないし、香水との関わり方は、本当に人それぞれだと思っている。ブランド名で選んだ香水がその人を幸せにするならば、そんなに素敵なことはない。香水を選ぶ上で一番重要な要素がボトルのデザインである人もいるだろう。大切なのは、使っている人が幸せになれるかどうかであり、香水の選び方に正解などないのだ。
なぜこういうことをしつこく書くか、というと、理由は2つある。1つは、私が他のブランドや消費者を否定していると捉えて欲しくない、ということ。もう1つは、私が書くことを正しいものとして鵜呑みにして欲しくないということ。
これまで書いてきたことも、これから書くことも、全て私の主観に基づいており、場合によっては間違っているかもしれない、ということを予めご理解いただきたい。
ニッチフレグランスの使命
前回の記事で、メインストリームが大衆化することにより、ニッチフレグランスが台頭してきたが、今日ではそのニッチフレグランスが均質化してきている側面がある、という持論を展開した。ここでいう均質化とは、ニッチフレグランスが、
① ニッチのラベルが貼られた大衆的な香り
② 奇抜なコンセプトの奇抜な香り
に二極化している、ということを指している。
私は、本来のニッチフレグランスの役割は、メインストリームでは作られないしっかりとした個性を持ちつつ、きちんと身に付けることができる香水を作ることだと考えている。これは、大衆的な香水作りはメインストリームの仕事であり、個性的だが身につけられない香水は、香水ではなくただの匂いがする液体だと考えているからだ。
もう少しわかりやすく表現をするならば、100人のうち80〜90人がそれなりに好む香水を作るのはメインストリームの仕事、その香水を好む人が10人未満しかいないようなものはもはや香水ではなくただの匂い、ニッチフレグランスはその間の、30〜60人くらいの人がすごく好きになってくれる香りを作るべきだ、ということだ。
100人中30〜60人がすごく好きになってくれるような香水に求められるものは、香水としての完成度の高さと新規性だと私は考えている。つまり、ニッチフレグランスとしての使命を果たすためには、この2つを両立しなければならない。
香水と地域性
ところで、前回の記事で言及したCalvin KleinのCK Oneの何が凄かったか、というと、世界のどの地域においても売れた、ということだ。香りの好みには私たちが考えている以上の地域差があり、通常は同じ香水でも各地域ごとでの売れ方に大きな差があるが、CK Oneはその垣根を飛び越えた、共通言語的な香水となったのだ。
つまり、CK One後の大衆化したメインストリームの香水というのは、地域に関係なくどこでも売れることを志向して作られたメインストリームの香水のことを指している。とはいっても、全てのマーケットで同様に売れるものを作るのは非常に難しく、現実的には香水が売れる大きなマーケットできちんと売れるための戦略を取ることになった。実際に、ある大手香水メーカーでは、マーケットサイズの大きい4つの異なる地域で行われる全てのコンシューマーテストで一定以上の点数を取った香水しか発売しない、というルールがあると聞いたこともある。
さて、これらの話を総合すると、こういった仮説が立てられないだろうか。
「日本人は香水を使わない」と言われているのは、そもそも日本人が香水嫌いであるということではなく、大きなマーケット向けに作られた香水が日本人の好みに合わず、結果的に日本人の香水の消費量が少なくなっている。
加えて、多くの調香師はフランス人だし、香水を出しているブランドも欧米のものが多い。彼らのセンスだけでは、日本人の好みに合う香水を作ることはほぼ不可能なのではないか、と考えられはしないだろうか。
私がやりたいこと
ここまで読んでくださった方には、私がフーテンの香水好きとしてやりたいことが大まかにおわかりいただけたのではないだろうか?私がやりたいことは、
本来ニッチフレグランスが作るべき、
新規性がありつつきちんと身にまとえる香水を、
日本人的感性によって作ること
である。ここでいう「新規性」と「日本人の感性」はフーテンの香水好きである私のセンスで、「身にまとえる」は素晴らしい調香師であるジャンミッシェルの技術で担保される。
これで昨今の香水マーケットを私がどのように捉えていて、そこに対して私のブランドが何を提供したいか、ということが理解いただけたと思う。
次回は、クリエーションに対して私が考えていることを書いてみようと思う。
ここまで読んでくださった方、ありがとうございます。どのくらいの方にきちんと読んでいただいているのか、こちらでは把握のしようがありませんが、こんなに長い駄文をもし最後まで読んでくださっている方がいらっしゃるのであれば、そんなに嬉しいことはありません。
次回も乞うご期待!