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人生最高の買い物

noteのおすすめに出てきた『人生最高額の買い物』という記事を見て、ふと、今宵見た夢を思い出した。それはまさに、「人生最高額の買い物」に関する夢だった。


通帳を見ると、75万円ほどの引き落としが目にとまる。

そうだ、この前大きな買い物をしたんだった。人生最高額の買い物だった。

それまでの人生で一番高い買い物は、新卒で会社に入る直前に購入したGrand Seikoの腕時計だ。60万円ほどだったはず。今でも大切に使っている。

75万円で何を買ったんだっけ…うまく思い出せない。レザージャケットか、バッグか…そういった類のものだったように思う。「不当に高いなぁ」なんて感じながら、渋々クレジットカードを切ったのだ。しかも2回払いで。

イマイチ思い入れのないもの大金を叩いてしまったことも去ることながら、気に入っている腕時計を“差し置いて”まで高いものを購入してしまったことに、私は後悔しはじめる。


これが夢の内容だ。75万円の買い物というのは夢の中だけの設定だが、今までで一番高い買い物がGrand Seikoの腕時計であり、今でも気に入って使っている、というのは現実に則している。

10年以上前の学生時代の買い物が人生最高額の買い物というのは、私の年齢だともはや珍しいのではないだろうか。きっとみんな、社会人になってしっかり稼いで高いものを手に入れているはずだ。もっと高価な時計を買っている人も多いだろうし、車や、人によっては家を購入した、というケースだってあるだろう。

そういえば、まだ私は外資系の金融機関にいた新卒一年目時の年収を超えられていない。もう今後、それを超えることなんてないのかもしれない。それならそれで結構なのだが。


「日本にいると、自分がとても強欲に思えるの」

久しぶりに会った友人はそう口にした。彼女とは私のフランス留学中にパリで出会ったが、今はアフリカのとある都市に住んでいる。

「私がいる都市では誰も必要としていないものを、私はこの一時帰国でとかく買い込んでしまうの。服とか化粧品とか食べ物とか、アフリカでは売っていないものを、次の一時帰国まで買えないことを見越して買いだめておくのよ。アフリカという異国の地で高いパフォーマンスを出すために、私にとっては必要な物たちなんだけど、あれもこれも、と買い漁っている自分が欲深い人間に思えてくるのよ。それがなんだか辛いんだよね」

私にも思い当たる節がある。パリ在住時の一時帰国時にはこれ見よがしに色々なものを買い込んでスーツケースに詰め込んでいたのだ。もはや何を買ったのかも、それがパリ生活でどれほど役に立ったのかもよく覚えていない。買ったはいいが使わなかった、食べなかったものもそれなりにあるような気がする。

彼女に関してはきっと、アフリカにはないけれども彼女にとっては必要不可欠なものばかりを購入しているのだと思うが、私は今思い返すと、漠然とした不安に負けてあれやこれやに手を伸ばしていたような気がする。日本に慣れてしまった私は、またパリの不便さに戻れるのだろうか…と、帰国のたびにビクビクしていたのだ。


来週の火曜日から1ヶ月ちょっとパリに戻る。最初の1週間はファッションウィーク関連の仕事、最後の1週間はミラノで行われる香水の展示会の視察等が入っている。それらの間は主に自分の香り制作にあてる予定だ。

たった1ヶ月だが、私は例によって、漠然とした不安に駆られている。寒いしファッションウィークもあるしで服は可能な限りたくさん持っていきたい。せっかく時間ができるから日本語の本もたくさん手元にあると嬉しい。なんならお米まで持参しようとしている。

目一杯詰め込まれたスーツケースで渡仏しても、その中のどれほどのものが本当に役に立つのだろう。服、どれくらい着るかなぁ…本、どれくらい読むかなぁ…お米、炊くかなぁ…。私は毎度、いらんものばかり持っていってしまうことは、経験が証明済みなのだ。


Q.E.D.


夢の中の75万円も、きっとなんらかの漠然とした不安により払ってしまったものなのではないだろうか。だから夢の中の私はその出費にモヤモヤしていたのかもしれない。

欲だったり不安だったり、その原因は様々だが、私たちはその場しのぎの免罪符にお金を払い、その結果それに苦しめられる。なんとも、哀れな生き物である。


その一方で、素晴らしい買い物もある。Grand Seikoなんかがまさにそうだ。購入時は背伸びに背伸びを重ねて買った、分不相応なものだったが、購入から10年以上経った今も、ほぼ毎日使っている。その他の時計に興味がないのは、手持ちのもので十分すぎるほど満足しているからだ。


いつか、Grand Seikoよりも金額も満足度も高い買い物をする日が訪れるのだろうか。今のところうまく想像できないが、そうであってくれるといい。

その時、私は何を買うのだろう。


次の「人生最高の買い物」が、私はなんだか楽しみになっている。


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