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香水と関わる仕事について

もうすぐパリに来て丸5年になるけど、
エッフェル塔はいつ見てもいいなぁ、と思う。
※本文とはなんの関係もありません。

以前ここで、香水に携わる仕事が調香師だけではないことに少しだけ言及した。そんなことは至極当然のことであるはずなのに、香水好きがいざ香水に関わる仕事をしようとすると、押し並べて調香師を目指す傾向があるように感じる。かくいう私もそうであった。
そのこと自体は悪くないと思う。調香師…素敵な響きだ。もし私が生まれ変わり、幼少期からその職業の存在を知っていて、かつそれを目指せる環境にいるならば、あるいは調香師になることを志したかもしれない。しかし今となっては、私自身が調香師になろうとは思わない。今の仕事が好きだし、非常に意義があることをしていると思うからだ。
なぜ香水好きが猫も杓子も調香師を目指してしまうのか、と聞かれれば、「調香師」という甘美な響きと、単純にそれ以外の職種があまり知られていないことからだと思料する。そこで、今日は香水の世界にどのような職種があるのかについてと、私がなぜその中で“香水クリエーター”あるいは“フーテンの香水好き”というポジションを選んだかについて説明できればと思う。
(昨日から“フーテンの香水好き”という言葉を多用しているが、以降“香水クリエーター”の意で理解いただければと思う。クリエーターという言葉がなんだか仰々しくて、もうちょっと軽い言葉がないかなぁ、と思い…)

そういえば、今までどうやって目次を入れるのかなぁ、と思っていたのだが、ようやくやり方がわかった。早速やってみよう。

1 オーバービュー

香水が消費者の手に届くまでに必要となるプロセスとそれに関わるプレーヤーは、ざっくり書くと、

① 企画:ブランド
② 製造:香料メーカー
③ 販売:ディストリビューター、小売店
④ 広報:ブランド、PRエージェント、ジャーナリスト

となる。まずは①と②のクリエーションに関わる部分について、調香師の立ち位置と併せて説明していこうと思う。
調香師はどこに属しているだろうか?答えは、②のケースが圧倒的に多いが、①のケースも稀にあり、また①にも②にも属さない独立した調香師もいる、である。1つ1つ解説していく。

2 クリエーション

香水の企画から製造までで一番多いケースは、
A:ブランドの企画部(マーケター)が香料メーカーに香水の制作を依頼するケース(この場合のブランドは、香水ブランドでもファッションブランドでも基本的には変わらない)。この時にブランドの窓口になるのは、通常「エバリュエーター」と呼ばれる人たちだ。彼ら彼女らはクライアントのニーズに合いそうな香りを既に作ってある試作品の中から選んだり、調香師にクライアントの依頼内容をブリーフィングしたりする。
ブランドは欲しい香水が決まったら、出来上がった香水を香料メーカーから買うこととなる。
次に多いケースが、
B:ブランドが独立した調香師に調香を依頼するケースだ。私はこのケースに該当する。独立している調香師は、とは言っても通常どこかしらの香料メーカーと契約をしているため、実質的にはAの場合とあまり変わらない。調香師が香料メーカーから給料をもらっているか、クライアントから直接もらっているか、の違いくらいだろうか。あとはこの場合は、ブランドは調香師を通して香水を買うことになる、ということも違いにはなる。
これはまたどこかで言及することになるかもしれないが、1年間クリエーションをやってみて、ブランドと調香師の関係性というのはクリエーションをするにあたって非常に重要であると感じた。その点において、もしかしたら独立している調香師とクリエーションをした方が、諸々融通が効く可能性があることは否定できない。
そして最後、
C:ブランドに調香師がいるケース。メインストリームだと、調香師を抱えているブランドは、シャネル、ディオール、エルメス、カルティエ、ゲランあたりだ。これらのブランドの調香師は、香料メーカーに所属せず、ブランドの中でせっせと(きっとマーケターとともに)香水のレシピを作っている。そして、出来上がったレシピを元に、香水を香料メーカーに発注することとなる。
昨今ニッチフレグランスブランドを自身で立ち上げる調香師が増えてきたが、多くは香料メーカーに所属したまま副業的にブランドを運営している。Parle moi de parfumのMichel AlmairacはRobertetに在籍しているし、MizensirのAlberto MorillasはいまだにFirmenichにいる。「なんでこの人自分のブランド出したのに、他のブランドの香水作ってるの…?」と疑問に思った方がもしいたら、これが理由だ。

ここまでに出てきた職業は、調香師、エバリュエーター、ブランドのマーケターの3つ。これらの職業の人が、クリエーションに携わることができる。ちなみに“フーテンの香水好き”こと私は、エバリュエーターとマーケターの2つの役割を担っていることとなる。

3 ディストリビューター、小売店

さて、オンラインでブランドから直接香水を買わない限りは、完成された香水は③の人々の力によって消費者のもとに届けられる。特に日本にいながら海外のブランドの香水を購入できるのは彼らのおかげだ。実は今私のブランドを日本でディストリビューターを通さずに販売できるように手配している最中なのだが、正直言って非常にめんどくさい。というか、日本にある程度コネクションがない限り、日本での販売はディストリビューターを通す以外にほぼ不可能だとすら感じた。
ディストリビューターや小売店の仕事の一つは、海外の展示会(ミラノのEsxence、フィレンツェのFragranzeなど)に顔を出し、日本に入れるためのブランドを探したり、日本市場に進出したいブランドから問い合わせを受け、取り扱いするかどうかの検討をすることだ(現状では海外の展示会に足を運んでいるディストリビューターや小売店はほとんどいない。そこまでお金と時間をかけてブランドを探し出したところで、日本のような小さいマーケットだとその後の展開が難しいからだと思われる)。
また、今の日本マーケットは、百貨店の香水売り場の大部分をディストリビューターが持っており、そこを担当している販売員もディストリビューターから派遣されている。
③の小売店には、個別ブランドの販売員も含まれている。日本法人を持って、自社店舗や百貨店の中のコーナーを持つブランドが少しずつ増えてきたことに伴い、これから日本でも、香水の販売員需要は増えてくるのではないか、と考えている。
まとめると、③に該当する人は、ディストリビューターや小売店のバイヤー、そして販売員である。

ちょっと脱線:良い販売員とは?

常々思うのだが、香水の販売というのは、非常に難しい仕事である。顧客自身も気づいていない自分の香りに対する好みをいち早く察知し、それに合致した提案をしなければならないし、前回の記事でも書いたとおり、自分にあった香水を探すのは時間がかかるため、仮にすぐ香水が売れなくとも、顧客と中長期的な良い関係を築いていかねばならない。たまに素晴らしい販売員さんに会うと、ぜひ自分のブランドの香水をこの人に託したい…!と思ってしまう。
私が思う良い販売員さんとは、知識がある人だったり、新作を上手に説明できる人ではない。それも大切なことなのかもしれないが、もっとシンプルに、顧客の話を親身になって聴いて、その人が何を欲しているのかを真剣に考えてくれる人こそが、良い販売員なのではないか、と強く強く思う。もし私が自分の店舗を構えることになったら、そういう人にぜひ販売員になっていただきたい。あまりにも顧客の親身になって、私のライバルブランドの香水を推薦しちゃうくらいの人が良いと思っている。

4 広報

ブランドが日本に入ってきたところで、それをPRしないことには誰も知らずに終わってしまう。そこで④の広報をしてくれる人が必要となる。ブランドが自社で広報を抱えているケースもあれば、外部のPRエージェントが担当する場合もある(香水専門というPRエージェントは聴いたことがないが、化粧品の枠組みの中で香水を扱っていると考えられる)。また、それとは別に、香水に関する記事を書くジャーナリストも④の仲間に入れて良いだろう。日本だと香水専門のジャーナリストはまだ少ないが、フランスにはそれなりに存在している。

5 ふぅ…まとめます。

調香師、エバリュエーター、ブランドのマーケター、ディストリビューターのバイヤー、販売員、広報、PRエージェント、ジャーナリスト、そして、フーテンの香水好き。今ここに書いただけでも、これだけの職種がある。この中で、調香師ばかりが目指されるのは、ちょっと寂しい。フーテンの香水好きも目指して欲しいし、販売員もなかなかチャレンジングな職種だ。
それぞれに求められるスキルは全く異なる。自分の特性ややりたいことに照らし合わせながら、幅広い視野で香水と関わりを持てると良いのではないか、と思う。

既にだいぶ書いてしまったが、もう少し続ける。

6 結びの言葉かつ本題(=次回に乞うご期待)

ここからが本題。なぜ私が香水クリエーター、フーテンの香水好きとなったか、ということについて。

もし私が、世の中にあるありとあらゆる香水に対し、どれもこれも素晴らしい、「みんなちがって、みんないい」というスタンスだったら、私はフーテンの香水好きにはならなかったと思う。
私は、今の香水マーケットにとても不満を覚えている。いい香水があまりにも少ないのではないか、と。
なぜ今の香水マーケットにいい香水が少ないのか、と考えたときに、それは調香師のせいではない、と思った。クリエーターが香りに対しての哲学を持つことなく、何気なく香水を作っているように感じられるからだ。

本当はこの記事の中で、もう少し今の香水マーケットに対する不満を書きたかったのだが…流石に既に4,000字オーバーしているこの記事は、誰も読んでくれないと思ったので、これに関しては次回に回します、大切なことなので。毎度長くなってしまってすみません…

次回の記事は、ここ最近の香水マーケットの動きと、私から見た今日のニッチフレグランスマーケットの問題点について説明をしたいと思う。過去取り組んだクラウドファンディングの記事に加筆修正していこうと思うので、もしかしたら同様の内容をもう読んだ、という人も出てくるかもしれないが、非常に大切なことなので繰り返し書こうと思う。

次回も乞うご期待!

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