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柿の一番美味しい食べ方

「柿って、本当に美味しいよね」

いつの頃だったが、母とふたりで柿を食べていた時、彼女がしみじみとこう口にした。それを聞いた私は、「柿って、美味しいんだ」と改めて認識したのをよく覚えている。

そう思って柿を味わってみると、この果物には独特のアコードがあることに気付かされる。柿には「柿にしかない味」がしっかりあるのだ。


そんなわけで、柿が好きだ。

「好きな食べ物は?」と聞かれた時に、「柿です」と回答するくらいに柿が好きだ。


新宿伊勢丹の「サロンドパルファン2024」開催中は、毎朝ひとつ柿を食べてから家を出ていた。疲労と寝不足で、朝ご飯を食べる食欲も時間もない中で、柿は私にいつも活力を与えてくれた。

最終日の今日も、いつものようにひとつ、柿を頬張った。シンクの上でするすると皮を剥き、立ったままでかぶりつく。行儀が悪いのは百も承知だが、どういうわけか、私にはこの食べ方が一番美味しく感じられるのだ。

いや、「二番目に美味しく感じられる」というべきだろうか。柿の一番美味しい食べ方は、母と分け合うことなのだから。


「サロンドパルファン」最終日は、平日にも関わらず多くの人にお越しいただいた。思いがけず忙しくなり、ランチはおろかトイレにすら行けなかった。çanoma取扱店のひとつ「Context Tokyo」の伊藤さんからの差し入れの美味しいお餅をバックヤードであむあむ平げることができたのがせめてもの救いだった。

最終日なので周りの出展者ともあれこれ話した。今年のサロンドパルファンはどうだったか、名古屋、京都、仙台は出展するか、ところで最近元気ですか、等々、話し出すと止まらなくなってしまう。それもまたこういった催事の魅力だろう。

「話し込んでないでトイレ行け」と言われそうだが…こうやって周りのブランドとコミュニケーションを取るのも仕事のうちなのだ。


強く印象に残った会話がふたつあった。

ひとつ目は、ご近所のブランドの方との間で交わされたもの。その方にçanomaの香りを紹介をしたのち、

「実は、私も昨年6月に母を亡くしたんです」

と切り出された。

彼女は母と私の最期の1ヶ月半に関するnoteを読んでいた。私の母の旅立ちは昨年3月末だった。

ふたりして目に薄らと涙を浮かべながらも、それがこぼれ落ちることはなかった。それはきっと、悲しみがいまだに癒えていないことの、そしてその上で日々前を向いて歩もうと努力していることの、証明のようなものだったのだと思う。

それがどういう言葉だったのかは正確には思い出せないのだが、その方は私のnoteに「救われた」という主旨のことを口にした。

誰かのために書いているわけではないこのnoteが私の預かり知らぬところで誰かのためになっていることを知るにつけ、ハッとさせられる。「嬉しい」とはちょっと違う。オノマトペで表現すると、“ジーン”が適切なように思う。


ふたつ目は、閉店間際にいらしてくれた女性との会話。

他のスタッフがお会計までした後、調香師Jean-Michel Duriezと私のサインが欲しいという要望を受けたので、私が対応することになった。Jean-Michelはまだ他のお客さんと話している最中だった。

もう閉店時間間際だったが、私たちは横並びで椅子に座って、出口方面に向かう人や急いで最後の買い物に走る人を眺めながらのんびりと話した。

「実は私、こう見えて末期手前の癌なんです」

彼女は至って元気そうに見えたので、余計に動揺した。今日の癌治療は進歩を遂げていて、かなり進行した癌を患っていながらも仕事をしている人も多くいるということを彼女は私に教えてくれた。

肝臓癌で亡くなった母のことを思い出さずにはいられなかった。最後の半年は車椅子生活だったし、1ヶ月半の介護生活の中で旅立ちの瞬間まで目にした私には、目の前にいる彼女の身体の中で今どんなことが起こっているのかを、ついつい想像してしまった。

「こんなに素敵な香りに出会えて、生きる活力が湧きました」

こちらも正確な言葉は覚えていないが、概ねそういう主旨のことを彼女は口にした。

Jean-Michelが長い立ち話を終え(私が無理やり終わらせた節があるが)、彼女が購入した香水のパッケージにサインをし、3人で写真を撮った。私は品物を彼女に渡す際に、「また来年も、ぜひ会いましょう」といった。それが適切な言葉だったことを、私は祈っている。


6日間に及ぶ「サロンドパルファン2024」が無事に閉幕した。近いうちにこのイベントを総括した記事を書きたいと思っているが、総じて「いい催事だった」と私は思っている。

明日は溜まっているあれこれを片付けなければならない。そして明後日から週末までは出張だ。

さぁ、「二番目に美味しい食べ方」で柿を食べて頑張ろう。


疲れていないといえば嘘になるが、不思議と今、私は元気だ。今回は、今まで以上にお客さんから力をもらったように思う。ブランドの成長を一緒に喜んでくれたり、香りに感動してくれたり(琴線に触れたのだろうか、涙を流す人までいた)、noteの熱心な読者であることをこっそり教えてくれたり…

人生の中で赤の他人からこんなにも温かい言葉と真心をもらうことは、きっと稀なことだと思う。

もしかしたら、私は何かをお客さんと分け合ったのかもしれない。それはつまり、「柿の一番美味しい食べ方」のようなものなのだろう。


「サロンドパルファン2024」のçanomaのブースにご来場いただいた方、誠にありがとうございました。来年もまた、呼んでもらえれば、という条件付きにはなりますが、出展したいと思っています。その際はぜひまた、遊びに来てください。

待ってます。


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