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ファッションのためのファッション

怒涛のパリファッションウィークがようやく終了した。連日書いているとおり、私は日本から来たバイヤーチームに同行し、道案内やショールームでの通訳をしていた。23日から28日までの6日間、朝から晩まで動き、総アポイント数は30を超えた。ハードスケジュールもたたり、私は例によってまた現在風邪をひいている。年末からずっとこの調子だが、いつになったら回復するのだろう。

昨年も同じ時期にファッションウィークでのバイイングに同行したが、その際はここまでハードスケジュールではなかった。アポイント数も今年よりかは少なかったし、私も全ての予定に参加したわけではなかったのだ。それが今年は、ショーやディナーも含めて全日程フルコミットしたおかげで、私にとってもさまざまな収穫のあるファッションウィークになった。疲れたけど。

いや疲れたのよ、本当に。


私にとっての収穫をひとつ挙げるとするならば、ファッション業界というものを垣間見ることができた、ということだろう。服というひとつの具体的なものを中心に、「作る人」、「伝える人」、そして「着る人」のそれぞれが、それぞれの思惑に基づいて、一部連携しながらファッションという巨大な、しかし実態の掴みにくい産業を形成しているというそのあり方を、ほんの少しだけだが理解することができたように思うのだ。

ファッションのそういったあり方を象徴しているのが、やはりショーであった。会場の前は、バイヤーやインフルエンサー等のショーの出席者と、それを写真に収めようとするカメラマンでごったがえす。前者は写真に撮られるために奇抜な格好をし、後者はそんな奇抜な格好を狙ってプロアマ問わず会場前に足を運ぶ。

そんなことも知らずにショー会場に向かった私は、カメラマンに半ば取り囲まれた際に驚きを超えて恐怖を覚えた。ただ、それにもすぐに慣れてしまい、最後にはいい感じにポーズまで取る始末だった。

たくさん撮られたものの、掲載されるのかはよくわからなかった。せっかくなら撮られたものを見てみたいと思い、あの手この手で探してみたところ、いくつか発見することができた。その中でも一番インパクトがあったのは、WWDのこちらのものだった。

どうでしょう…?いずれにしても、コーディネート以上に、サングラスと髭が効いている。いい具合に目立ったおがげでのスナップだったと思う。


ショー自体も、皆写真や動画を撮ることに熱中し、きちんとショーに見入っていた人はごくわずかだったように思う。そこで撮影されたものはSNSやネット、紙媒体を通して世界中に拡散され、ブランドの認知そして威信を押し上げるのだ。


そんなふうにファッション業界を隙間から垣間見たわけだが、一部では派手さを追い求める動きが強いように私には思われた。「伝える人」の力が以前に増して強くなっているのがその背景だと思料するが、客観的に見ると、言い方は悪いがそれはどこか“コスプレ感”のあるファッションになってしまっているように感じられる。そういう服を作るブランドと、そういうコーディネートを好む人が相まって、ファッションの“コスプレ化”は進み、それを嬉々として伝える人によりさらに推し進められるのだ。

それが悪いことだとは思わないものの、先鋭化が進み日常からかけ離れたものとなったときに、ファッションの形骸化は避けられないように思う。「ファッションのためのファッション」というふうに自己目的化してしまい、本来のあるべき姿を見失うのだ。

そしてその傾向は、ファッション以外、例えばフレグランスにおいても起こっているのだろう。「いい香りとは」というシンプルで本質的な問いから目を背け、派手さや奇抜さを追求したことで、ニッチフレグランスはその存在意義を少しずつだが失っているような気がする。差別化のためのブランド戦略で満ち満ちたこのジャンルにおいて、本質的なことをやっている人がいるようには思えないのだ。


ファッションウィーク最終日最後の仕事は、とあるデザイナーとの会食での通訳だった。とはいいつつ、最後の仕事で気が大きくなったこともあり、私もそのデザイナーにあれこれ質問を投げかけた。

とあるブランド(ここでは「A」としよう)の話になった際、Aに対してどのような印象を持っているか、そのデザイナーに尋ねてみた。

「Aは明らかにトレンドを追いかけたファッションブランドだと思う。悪いブランドだとは思わないけど、10年以内に消滅するんじゃないかな。BやC(その会話の中で名前が挙がった、Aと同じくらいの規模と歴史の他のブランド)は、きっともっと長く続くし、もしファウンダーがブランドを去ってもブランドは続いていくはずだよ。Aは、ファウンダーがいなくなった瞬間に、ブランドとしての全てを失うだろうね」

今のところ、私の目にはAの方がBやCに比べて人気があるように映っているが、そのデザイナーのいうこともよくわかる。「あくまで僕の意見だけどね」と彼は付け加えたが、ファッション業界における「作る人」の多くが、同じような意見を持っているような印象を受ける。


ブランドのファウンダーが去っても存続するブランドかどうか…「いいブランド」の条件を教えてもらったような気がする。


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