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今日の最後の晩餐

出国の前日というのは得てして慌ただしくなるものだ。

今日は朝から荷造りをして、日中はバタバタと仕事をした。夕方の予定が急にキャンセルになったのが幸いだったが、それでも夜6時ごろまで忙しくしていた。

明日の朝の便でパリへと向かう。このnoteをアップした数時間後には家を出なければならない。

出国前にいくつか買い足したいものがあったので、夜は新宿へと出かけた。ハンズや本屋を回って買い物を済ませた時には7時半過ぎになっていた。

なんだかひどくお腹が減っていた。

さて、何を食べようか。


出国の前日に何を食べるかを決めるのを難しく感じるのはなぜだろう。どうせ2週間ちょっとで帰ってくるのに、「最後の晩餐」よろしく、後悔のないように食べておきたい気持ちに駆られる。

豪華なものである必要はなく、とにかく私が満たされることが大事なのだ。心も身体も満たしてくれる夕飯はなんだろうか…私は新宿の真ん中で思案した。


“今日の最後の晩餐”(というのはひどく矛盾した言い方のようだが、私の中ではきちんと整合性が取れている)は、焼肉の気分だった。それも、ホルモンを、心も身体も欲していた。

恵比寿に好きな焼肉屋がある。学生時代から手軽に焼肉を楽しむ時に駆け込んでいた店だ。そこに電話をかけると、8時に空き席がある、とのことだった。

そのようにして私の“今日の最後の晩餐”は焼肉に決定された。


ノンアルコールビール、どて煮、卵スープ、レバー、ホルモン3種盛り(を頼んだつもりだが、5種盛りがきてしまった)、上カルビ、小ライス…心の赴くままに注文した。

どれも美味しかったが、レバーと上カルビが大変よかった。お会計は思っていた金額の8割程度だった。とても満たされた。


少し歩きたい気分だった。恵比寿から渋谷まで歩いて、そこからバスに乗って帰ることにした。

雨上がりの東京は素敵だった。黒さを増したアスファルトが街明かりを照り返し、いつもより街が少しだけ明るくなっていたのに、人通りは通常よりも少なかった。それが私をちょっとだけ前の東京に戻ってきたような気分にさせた。

線路沿いを歩いていると、山手線が多くの人を渋谷へと運んでいるのが見えた。中央の車両ほどたくさんの人が乗っていた。空いている末端の車両は、満員電車の中の人からは見えないことが不思議に思えた。

ふと、この山手線の車内に知り合いがいる可能性について考えてみた。知り合いとまではいかなかくとも、私と言葉を交わしたことがある人ならば、あるいはいるのではないだろうか。それともこれくらいの人数ではその確率にある程度の大きさを与えるにはまったくもって十分ではないのだろうか。どうなのだろう。


渋谷に近づくほどに街は“今”に戻っていった。渋谷駅付近の商業施設のスターバックスでコーヒーを飲んで、夜遅くまでやっている本屋に立ち寄り、その後バスに乗って帰宅した。帰宅前にコンビニに立ち寄った。焼肉で満たされた心と身体をさらに喜ばせてくれるアイスがあるのでは、と思ったが、現実はそう甘くなかった。炭酸水だけ購入した。


私は今、荷造りを済ませて(いつもコンパクトな荷物で行こうと思うのだが、結局あれやこれや詰め込んでしまい、大きなスーツケースにいっぱいになってしまう)、お風呂で炭酸水を飲みながらこのnoteを書いている。今は深夜0時半。4時間後には起床し、5時間半後にはバスに乗っている。


いつの日か、もっと時間的にも経済的にも余裕のある生活はできるのだろうか…と思いながらも、これはこれで悪くないような気がしている。きっと余裕があったら、「最後の晩餐」について真剣に考えなくなってしまうだろう。このギリギリ加減が、「もしかしたら、本当に『最期の晩餐』になってしまうかもしれない」と私に思わせているのだ。


9月に入ってからの多忙な日々ゆえ、疲労困憊で飛行機に乗り込むことになるが、空の上の14時間でしっかり休もうと思う。パリに着いたらまた忙しい日々が待っているが、パリから東京に帰る前日の「最後の晩餐」のために、ちょっと無理しながら頑張ろうと思う。


というわけで、いってきます。


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