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初恋の威力

今週は平日は毎日終日展示会、週末は仙台でのポップアップで店頭接客。1週間立ちっぱなしになる予定だ。身体はすでに結構しんどい。

ただ、思いがけず展示会で隣り合った方々とそれぞれ共通の知り合いがいたこともあり、とても仲良くなった。そしてはじめて出展する展示会なるものも、最初はイマイチ勝手がわからずとても不安だったが、やってみると意外と面白い。結局私は、向いているかどうかはさておいて、営業とか接客なんかが好きなのだろう。


展示会初日の夜は会食が入っていた。身体はすでに疲れ切っていたが、お互いに興味関心のあるテーマがいくつかあり、かなり熱っぽく語った。有意義で楽しい時間になったが、終わった頃には疲労困憊だった。駆け抜けた1日となった。

LUUP(電動キックボード)で帰宅する途中、疲れた頭が、どういうわけか、ふとあることを思い出した。

どうしてそれを思い出したのかよくわからない。脈絡もないし、あまりにも些細なことだけれども。それだけ私は疲れていたのだろうか。


それは、3週間ほど前に行ったアントワープでのこと。アントワープ写真美術館に向かっていたときだったと記憶している。

トラムを降りて、美術館へ向かう途中、開けた大きな芝生の広場を突っ切った。その日は祝日で、お昼過ぎの広場には子どもから大人まで多くの人が思い思いに過ごしていた。

私の目の前にひとりの白人女性がいた。細身で背が高く、デニムに薄手のニットとカジュアルながら清潔感のある出立ちだった。

その方は、私の初恋の女性にとてもよく似ていた。それは小学生の頃のことで、もちろん相手は日本人である。人種は違うものの、目の前にいる彼女は、その遠い記憶の中にある初恋の相手と同様の特徴を持っていた。色白でひっつめ髪、少しだけ上がった目、小さな目と口、細い顎。同一人物であるのではと思ってしまうほどではなかったが、各パーツもよく似てるし、その組み合わせ方もほぼ同じだったように感じた。もしかしたら違っていたのは人種だけだったのかもしれない。


小学生の半分くらいの期間を彼女への片思いとともに過ごしたが、結局最後までそれは打ち明けられなかった。小学校卒業後、私は遠方の全寮制の学校に通うことになったので、そこで離れ離れになってしまった。

その子と再会するのは、確か私が大学院生になった頃だ。小学校の同窓会をするにあたり、予め先生に寄せ書きを集めておくことになった。そんな中どういうわけか私は、出席できない彼女にその寄せ書きを手渡しする仕事をおおせつかった。出席番号が私の前だったからかもしれないが、そんなことでもない限り、その子とは一生会うことなどなかったはずなので、まさしく“千載一遇”のチャンスだった。

ただし、10年ぶりに会う彼女に、私はひどくがっかりしたのをよく覚えている。細かいことは割愛するが、なんというか、全体的に“パッとしない”雰囲気になっていたのだ。

どこかのカフェで会ったはずだが、何を話したのかは全く覚えていない。それももう今となっては10年以上前の出来事なのだ。


アントワープで見かけたその女性は、小学校の頃の初恋相手の、記憶という、あらゆるものを浄化する作用を持つ液体の中で、他の出来事よりもさらに美化されたその姿に近しい何かを持っていた。目を見張るような美人だったわけではない。もちろん綺麗な人ではあったが、それ以上ではなかった。

ただ、彼女の中には、私の琴線に触れる何かが間違いなくあった。記憶にある初恋相手の面影か、あるいはそれすらも通り越したところにある、どう足掻いても掘り起こすことのできない、私の心の奥底に眠っている何かが、彼女のある部分と共鳴したのを、私はしっかりと感じ取ることができた。


夜道を走りながら、その「何か」について思いを馳せてみた。それは初恋という人生に一度しかない特別な現象が作り出したものなのだろうか。それとも、それは元々私に備わっていたもので、だから私の初恋相手は彼女だったのだろうか。

答えは出ぬまま、私は家に到着した。きっといつまでも、その答えを得られることはないのだろう。


初恋の相手も、アントワープで見かけたその女性も、今日の私の「タイプ」というわけではない。ただ改めて、初恋、つまり「恋の原体験」のもつ威力を、私は感じずにはいられなかった。10年前に再会した際の“ガッカリ”もなかったことになるほどに、それは輝きを放っているのだから。


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