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「◯◯が××したので△△して□□してあげた」話
「◯◯が××したので△△して□□してあげた」
という話を、これから長々と書こうと思う。
To bike, or not to bike : that is the question.
「電車か、自転車か、それが疑問だ」というかの有名なシェイクスピアの一節があるが、私はこの悩みを毎朝自身に投げかけている哲学的な存在であることをここに告白する。
自転車に乗りたい気持ちはあるものの、赴く先や前後の予定を考えると電車で向かう方が適切なこともままある。もちろん、目的地周辺における駐輪場の有無なんかも考慮しなければならない。
今朝は家を出る直前までは自転車で行こうと意気揚々と準備をしていたが、その“駐輪場問題”がふと気になり、結局not to bikeとなった。
下はHed Mayner x Reebokのオーバーサイズのスウェット、上は先日こちらの記事でも紹介したLiFill x ParkのロンTにDescente Allterrainのスポーティなジャケットを既に着ていた。荷物もバックパックに入れていたところも含めてバッチリto bike仕様だった。とりあえずジャケットを脱いでMOTHER HAND artisanのニットと、近々「今年買ってよかったもの」シリーズで紹介しようと思っている中綿のロングコートを着た。バッグも違うものに替えようかと思ったが、面倒だったしLUUP(レンタル電動キックボード)に乗るかもしれなかったので、バックパックをそのまま担いで行くことにした。
自転車で行かない分、今日はそれなりに歩く可能性があったので、スニーカーはこちらの記事で紹介したAsicsのGel-Kayano 20にした。最近自転車に乗らない時はこればかり履いている気がする。大変お気に入りだ。
よく晴れた朝9時半だった。あたたかな日差しがまだきちんと秋であることを思い出させた。
こちらの記事で紹介したKameManNenのサングラスをかけて外に出た。とても気分がよかったし、なんだか身体も軽かった。この土日、しっかり休むことができたからだろう。
山手通りから代々木八幡駅に通じる小道に差し掛かる30メートルほど手前ところで、私の横を、おじさんが猛スピードで駆け抜けていった。きっと乗るべき電車の時刻が迫っているのだろう。私もこの辺りでよく猛ダッシュをかましている。
そのおじさんが、小道に入る直前で、手袋をポトリ、そしてまたポトリ、と片方ずつ落としてしまったのだ。もちろん、おじさんは全く気づかないし、周りにいた人も、気づいていないか、あるいは“見て見ぬふり”をしていた。呼び止めたらおじさんが電車を逃してしまう可能性もあったので、確かに難しい判断ではあったのだが。
「ああ、あなたは遅かった。おうらみ申します。ほんの少し、もうちょっとでも、早かったなら!」
太宰治『走れメロス』、セリヌンティウスの弟子フィロストラトスがメロスに投げかけたあの言葉が脳裏をよぎった。もうあの手袋は見捨てられ、誰の手をあたためることも、誰かの手によってあたためられることも無くなってしまうのか…私はそれを、指をくわえて眺めるだけなのだろうか…
「いや、まだ陽は沈まぬ。」
私は咄嗟に走り出した。それぞれの手袋を、ゴロを丁寧に処理する内野手よろしく華麗に拾い、おじさんの背中を追いかけた。手袋から代々木八幡駅の改札までは30メートルちょっと。おじさんは既に改札まであと10メートルほどのところまできていた。
私は、走った。バックパックと走りやすいスニーカーという偶然の選択が功を奏した。何を隠そう私自身も36歳の立派なおじさんだが、その瞬間ばかりはきっと現役の短距離選手だったあの頃を彷彿とさせるフォームで疾走していたはずだ。
「それだから、走るのだ。信じられているから走るのだ。間に合う、間に合わぬは問題でないのだ。人の命も問題でないのだ。私は、なんだか、もっと恐ろしく大きいものの為に走っているのだ。」
おじさんが改札を通過する頃、私はまだその10メートルほど手前だった。
私は代々木八幡駅ではなく、その下に位置する代々木公園駅からnot to bikeの予定だったので、その改札を通ることはできなかった。それでも私は走り続けた。
改札に到着し、私は最後の力を振り絞って、
「おじさん!」
と叫んだ。
おじさんは振り向かなかった。
「今改札を通過したおじさん!」
私はもう一度、声を張り上げた。
今度はびっくりして振り向いてくれた。
「手袋、落としました」
おじさんは私に駆け寄り、改札の外にいる私から手袋を受け取った。
「ありがとう、助かりました」
と一言。
「気をつけて!」
私は笑顔でそう返した。おじさんは走り去った。
今日はnot to bikeが正解…と独りごちりながら、私はゆっくりと代々木公園駅へと向かった。何かに打ち勝った気がした。
「おじさんが手袋を落としたので拾って届けてあげた」話、でした。
めでたし、めでたし。
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