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今日はまだダメだよ

「このまま、いち、に、さん、ぽーん!であの世に行けたらいいのにな」

今朝、食後に気持ち悪くなってしまった母がこぼした。でもその後すぐに、こんなことを口にした。

「でも、今日はまだダメだよ。なーんて、私ってわがまま」

日々、私は母の揺れ動く気持ちと向き合っている。私にはそれをそのまま受け止めることしかできない。

母はこの苦しみから逃れて早くこの世とおさらばしたいと思いつつ、やはり全く未練がないわけではない。母と一緒にいる時間が増え、だんだんそのあたりの揺れる彼女の気持ちが理解できるようになってきた。


「象と飼育係はいつもと同じようなことをしているだけだった。掃除をしたり、食事をしたり、仲良さそうにちょっとふざけてみたりっていうくらいのことだよ。そんなのはいつもやっていることさ。ただ僕がちょっと気になったのは、そのバランスのことなんだ」
「バランス?」
「つまり大きさのバランスだよ。象とその飼育係の体の大きさのつりあいさ。そのつりあいがいつもとは少し違うような気がしたんだ。いつもよりは象と飼育係の体の大きさの差が縮まっているような気がしたんだ」

村上春樹『象の消滅』

痩せ細って骨ばった母の身体に身を寄せていると、彼女が突然泣き出すことがある。彼女は彼女の身体、そして心の中にいる、目には見えない敵を相手取って最後の戦いに挑んでいるところなのだ。それなのに、こんなに彼女の近くにいる私は、何ひとつ手助けすることができない。私は彼女に見えないように、彼女のパジャマを涙で濡らす。

今日そんなことがあった時、ふと、村上春樹の短編小説『象の消滅』を思い出した。町で飼われていた年老いた象が、ある日忽然と姿を消す。その象の最後の目撃者であった主人公が、その目撃時に起こったことをバーで話しているシーンが先に引用した部分だ。

それは不思議な光景だった。通風口からじっと中をのぞきこんでいると、まるでその象舎の中にだけ冷やりとした肌あいの別の時間性が流れているように感じられたのだ。そして象と飼育係は自分たちを巻きこまんとしている−あるいはもう既に一部を巻き込んでいる−その新しい体系に喜んで身を委ねているように僕には思えた。

村上春樹『象の消滅』

私たちは、私たちを巻き込んでいる新しい体系に、完全に喜んでいるわけではないが、うまい具合に身を委ねている。そこには悲しい雰囲気と親密な空気が、ちょうど同じくらいの量存在している。

母は今、ちょうど小説の中の象のように、少しずつ小さくなっている。いつもと少しだけ違うバランスの中、私たちはそれでも、いつも通り仲良く過ごしている。

こんな日が、もっともっと続けばいいな、と思う。


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